家族のブログ記事
家族(ムラゴンブログ全体)-
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山岸のCDが発売され、順調にチャートを上げていくものの、あまりの変わり様に酷評されることもあった。時代の流れと共に多くのことが様変わりしていく中、音楽も姿、形を変えていく。ただ、山岸はこのCDで、リズムや、奇抜とも思える進行など形は変わったが、自分の音楽の本質は何も変わらないことをメッセージして... 続きをみる
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伊豆に戻った敏也に一本の電話が入った。 「おい、敏也、ソーナイスに顔出したってな、オーナーから聞いたよ。で、写真も辞めちまって、お前どうせ暇してんだろ?ベース弾けよ、ベース。いねーんだよ、いいやつが」 大介と自分を世に出してくれた山岸であった。相変わらず人の都合など一切気にしない男だ。 「な、... 続きをみる
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敏也は料亭を後にして、大学を辞め音楽にのめり込んだ街、新宿に来ていた。まだ、箱バンドとして活動したライブ・パブはあるのだろうか、ふと気になり、吸い寄せられるように身体が向いていた。多くの店が様変わりしているが、ネオンの数は変わることがない。 “Jazz live So-Nice” ネオン官... 続きをみる
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敏也は雪子をテストしたわけではないが、料理を食べ確信をしていた。 「イタリアンは気取らない家庭料理をベースにしたもので、食を通し絆を深める素晴らしいもの」 日本ではバブル期にイタリア・ブームが沸き起こった。高級ブランドが紹介される中で多くのイタリア料理店が開業し、イタ飯と呼ばれ若者達のトレンド... 続きをみる
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「おはようございます」 朝、チェックアウトの客を見送り、女将と坂崎夫婦がちゃりんこカフェを訪れた。雪子は買出しを綾香と英子に頼み、すでに仕込みに取り掛かっている。 「雪ちゃん、何でも指示してよね、今日は雪ちゃんが板長だから」 「あなた、板長って、おかしいでしょ。シェフって呼ばないと」 「幸さん... 続きをみる
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住居の片付けも終わり、敏也は綾香を連れ行動を開始した。まだ本格的に撮影に入るのではなく、下見で下界での撮影ポイントを探していく。気になる情景があれば、季節、時間、また、どんな天候であればより良い写真に仕上げることが出来るのか、事細かに記録し撮影の計画を立てていく。もちろんシャッターチャンスがあれ... 続きをみる
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伊豆に引越しをした敏也は朝、自転車で10km程走り終え、ダンボールがまだ片付かない店舗でコーヒーを淹れていた。綾香と知明子はまだ部屋から出てくる気配はない。 「すみません、お店やってますか」 サイクリング途中の20代半ばと思われるカップルが、駐輪ラックに掛けられた敏也の自転車を見たのであろう... 続きをみる
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綾香がギャラリーに来て5年が過ぎようとしている。 夏期の低山での撮影にはアシスタントとして敏也に同行し、写真に益々のめり込んで行く。写真の上達も早く、現像をしている佐々木も綾香の感性には驚くばかりだ。 長野から来た知明子も今年33歳を迎え、若くして苦労した長野での生活を振り返ることもなく、カ... 続きをみる
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敏也は連休中も、自宅に戻る気配は見せず、カフェに滞在を続けている。もちろんカフェでの宿泊は全ての従業員に許されるもので、役員とて例外ではない。休日前夜には知人、友人を伴いカフェで宿泊し、早朝に山を目指す写真館のスタッフも多い。 綾香は敏也から借りた本に集中し、連休中の時間の多くを読書に費やして... 続きをみる
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クリスマスを終えカフェはしばらく休暇に入る。年間を通じ連休はこの期間だけで、敏也も撮影の日程をこの日に合わせ調整をしている。 カフェの前にそびえ立つ山は中腹辺りまで雪に覆われた。 綾香は英子と出かけたサイクリング途中で、休憩に立ち寄ったコンビニの駐車場から、山を眺めている。英子が店から出て ... 続きをみる
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綾香が撮影した写真は、レンズが広角一本だけに限られていたが、風景を写し撮るだけに留まらず、情緒ある古めかした宿、部屋の小物、宿の食事にと被写体は多くに及び同室であった英子の寝顔までも収めていた。 風景写真は広角レンズの持つ強みを活かし、広がりのある風景を切り撮り、屋内の撮影では、広角レンズ... 続きをみる
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カフェ周辺の山々の頂は、うっすらと雪化粧を始めた。もう間もなく厳しい冬がやってくる。 インターネット上で多くの憶測が飛び交い、TVのワイドショーまでも巻き込んだ騒動は、結論など出さずとも何時の間にやら終息したようだ。人の興味などは次から次へ移り変わるもので、時間が解決をしてくれる場合が多い。 ... 続きをみる
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綾香はザックにカメラを入れ、写真館に自転車を走らせた。カメラのメンテナンスを佐々木に依頼し、レンズの選択に入っている。佐々木のアドバイスもあるだろうが、綾香がどんなレンズを買うのか、英子も敏也も楽しみにしている。 「これが、英子さんのカメラで、先生はこのカメラで写真を始めたんだ」 カメラを手に... 続きをみる
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綾香はフィルム一眼の購入は諦め、普及品のデジタル一眼を視野に購入を考えている。 「無理なものは仕方ない、諦めよう」 自身に言い聞かせるほかはない。店舗でローンの分割支払いの案内を見て佐々木に尋ねたが、 「ローンを組んでまで買うことは、先生も英子さんも反対するよ。もちろん俺も反対」 と強... 続きをみる
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敏也の合図にカーテンが開けられ、その瞬間にクラッカーが鳴り響いた。 驚いた綾香は奇声を発しのけぞっている。 「綾香、お誕生日おめでとう」 と英子の大きな声が響いた。その後に続きスタッフや常連客から繰り返しおめでとうと声がかかり、拍手で迎えられ、敏也のエスコートで席の中央へ進む。誕生日など祝っ... 続きをみる
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綾香がギャラリーに来て約半年が過ぎ去ったが、母親から捜索願いが出されることはなかった。撮影で留守の多い敏也の顔はしばらく見ていない。カフェの仕事は順調であるが、写真が頭から離れることはなく、交代でアシスタントとして同行する写真館のスタッフを、羨ましいと思うこともある。 9月25日、今日は綾香に... 続きをみる
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ランチが始まると同時に店は満席となり、待ちの客も出始めピークを迎える。キッチンは目の回る忙しさだが、その慌しさがホールに伝わることはなく、ゆったりとした食事が楽しめる。 コースに仕立てられたランチは洗い物が半端なく、テーブルの片付けと洗い物をしている綾香の顔からは笑顔は見られず、英子が気に... 続きをみる
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営業が始まるとすぐに客が集まり出し、コーヒーと軽いサンドウィッチを楽しむ。決して安い価格ではないが、調度品は見合ったものを設え、コーヒーも自家焙煎された豆を注文を受けてからミル挽きし、一杯一杯丁寧にドリップされ、コーヒーフレッシュは使わず、生クリームが提供される。 言うまでもなくコーヒーフ... 続きをみる
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朝、綾香が目覚めると、身体にフィットしたスポーツウェアを身に纏い、出かける準備をしている英子の姿があった。 「おはよう綾香ちゃん。私ね、これから30分ぐらい自転車に乗ってくるからその間少し待っててね、お腹空いてたらご飯用意してあるから食べててね」 楽しそうに出かける英子を、綾香は自転車置き場... 続きをみる
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食事をしながら綾香は、 「今日、初めて富士山見たんです。綺麗だったぁ~。それにね海も初めてみたの。そのとき思ったんだけど、地球って本当に丸いかも知れないなって、変でしょ、私。地球が丸いなんて見たこともないし、感じたこともないし」 と微笑む。英子はうなずきながら話を聞き、 「そうね、綾香ちゃん... 続きをみる
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英子は運転をしながら綾香に話しかけるが、返事はするものの自分から積極的に話すことは何もなかった。 車は市街地を外れ、森の中にある建物の敷地に停まった。山の麓に丸太で造られた建物は、温もりを感じ辺りの景観を壊すことはない。 中に入ると1階はギャラリーで、販売用写真や非売品の写真、金色に塗ら... 続きをみる
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少女は普通列車を乗り継ぎ、住所と同じ名前の駅に降り立ったが、写真の風景などどこにも見当たらない。 交番に入り写真集に出ていた住所を尋ねると、対応した初老の警察官は、住所、氏名、生年月日など多くの質問をし、入った無線に返事をしてその場所をようやく教えてくれた。それはただ、ロータリーを挟んで目の前... 続きをみる
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夜明け前の暗がりの駅ホームで、始発電車を待ち、一人の少女がベンチに腰を降ろしている。 中学を卒業した翌日に、使い古したザックを背に家を出た。この時期はまだ冷え込み、手を丸めては息を吹きかけ擦り合わせ、膝を小刻みに動かしている。15年もの間過ごして来たが、生まれ育った土地を離れる寂しさはない。 ... 続きをみる