紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” むらさき1

 むらさきと聞いてお醤油を思い浮かべる方は、もうそれほど多くはないのかもしれない。家康が征夷大将軍に任命され、中央政権が江戸に移され政治の中心にはなったものの、文化面では京、大阪に遠く及ばない。江戸に独自の文化を創ろうと、高価で貴重であった醤油に、皇族にしか使用が認められなかった紫色にその思いを支配階層が託したとされ、こう呼ばれるにようになったとか。醤油が紫と呼ばれるようになったのは諸説あるが、醤油に対する思いは強かったのであろう。


 お醤油は中国から伝わった食物を塩漬けにした醤(ジャン)がルーツで、魚を発酵させた魚醤、大豆を発酵させた味噌から醤油が生まれた。江戸の中期までは、味噌を仕込む際に出来る上澄みのたまりが醤油のスタンダードで、それ以降に今で言う一般的なお醤油が出来上がる。


 蒸した大豆と炒った小麦にコウジカビを加えて、塩水と共に樽の中で一年ほどの時間をかけて発酵させてお醤油は出来上がる。その香り成分は300を越え、自然の持つ力の奥深さを知ることが出来る。


 BGMはこの曲で。

The Jimi Hendrix Experience - Purple Haze (Music Video)
 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると優子と久し振りにクリスティーネが顔をだした。優子はハーパーのロックを、クリスティーネはカールスベルグのビールを楽しんでいる。


 二人は民族の持つ遺伝子から、日本人の意識やそれを西洋人から見て不思議に感じることなどに触れ、今は料理や味覚について話をしているようだ。ドイツは北緯47度から55度で北海道より北に位置している。南のイタリア、フランスと比べて安易に食糧生産が出来る国では決してないであろう。


「ドイツは、イギリスみたいに主食としてジャガイモは食べませんけど、ジャガイモ料理は多いですよ。ジャガイモだけでフルコース作れるわ。後は野菜の酢漬けやソーセージかな。豚肉はみんな好きですね」


「ピクルスとかザワークラフトね。保存性の高いものが多いのは日本と似てるね」


「あ~でも日本のお漬物だめですね、美味しくありません。それに、日本の料理は何でもお醤油でみんな同じ味、楽しくありませんね」


「そっかぁ~、漬物もお醤油もだめかぁ~」


 人の味覚は甘、辛、苦、酸の4味を識別する物であるが、これに日本人は「旨み」と「渋み」を識別する舌を持つ。旨みとはグルタミン酸で、世界的に見ても日本人の舌は繊細でより多くの味の要素を識別でき、より食事を楽しめることでもある。


                                                    続く

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