「家族」 決断 1
「綾香の作成してるホーム・ページがすごく好評で、また、見積もりの依頼が来てますよ。写真から何もかも一人で抱えてるんで、スタッフ募集かけましょうかね」
「うん、一度相談してみないといけないけど、そんなに無理して広げる必要もないんじゃないかな。綾香が出来る範囲で仕事をこなしていけばいいし」
敏也は英子から報告を受けているときに徐に切り出した。
「ところで明日の休日、英子さん予定は?」
翌日、英子は朝早くに起き、おにぎりを用意していた。もう間もなく日が登るであろう。
英子と敏也は、久し振りに二人だけのサイクリングを楽しんでいる。半島の西に進路を取り海岸線をめざした。風を受け、緑に包まれた山間を走る自転車がなんと気持ちの良いことか。視界が開け、海岸に出くわすと海越しに富士が浮かんでいる。岬に作られた公園内のベンチで休憩を取り、二人で富士を眺めながら敏也が話しかけた。
「英子さん、私が今までやってこれたのは英子さんのお陰だ。本当にありがとう。心から感謝してるよ」
「嫌ですよ、何を改まってそんなこと」
敏也は会社を退き、新たな取り組みを始めたいと話した。敏也自身、どんな形になるかはまだ想像すら出来ないが、自分の感じていることを少しでも残していきたい。また、社長として最後に雪子、綾香に、そして近い将来会社から離れるであろう清流荘のスタッフを旅行に連れて行きたいと話し、日程の調整を頼んだ。
写真館は佐々木に引き継いでもらい、本社ギャラリーとカフェは売却する。長年、カフェで勤めてくれた貴子には、カレーショップ開業のためにサポート出来ることを考えると言い、そして敏也はしばらく沈黙した後、
「そして、もう私達の関係を、終りにさせないか」
「え?」
英子は言葉を探したけれど、見つけることが出来なかった。
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