紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 夫婦 2


 敏也は渡辺夫妻に夫婦の理想の形をイメージする。婚姻後、20年近くの歳月が流れるがお互いを認め合い、人目を気にすることなく仲睦まじい夫婦である。


 家族への愛も何時しか薄れ、お互いに関心もなくなるのが多くの日本人であると思う。そしてまた敏也にも夫婦の危機が迫っている。


 年老いたとしても二人の愛、信頼関係は薄まることはないであろう。そんな思いを敏也はファインダーを覗き写し込んでいく。


 撮影後には英子の作ったおせちと、渡辺の持参した酒で毎年新年会が行われ4人の楽しみになっている。この席にもちろん綾香も同席し、


「昨年3月に英子さんに子供ができましてね」


と、敏也が冗談を交え紹介すると、綾香も英子も満更でもない微笑を浮かべている。そして敏也は


「写真は期待してくださいよ、愛し合うお二人をいい感じに撮れたんじゃないかって、自分で思ってます。でも羨ましいですよね、うちは、とうとうだめかな」


と自信に満ちた笑顔から、苦味笑いに表情を変えた。すると晃が、


「そうか、、、夫婦のことは当人同士の問題で、他人がとやかく言うことでもないけどさ、なんか日本人ってのは下手だよな、格好つけてんのかわかんないけど。よくアメリカ人のこととか個人主義って言うけど、俺に言わせたら日本人のがよっぽど個人主義だよ。向こうは家族が第一で、いつも家族と一緒さ」


と話し、敏也には心痛いものがあった。さらに晃は、


「うちは子供いないけど、向こうは子供が出来て、そこそこの年齢に達すると個人の部屋を与えるんだけど、部屋ってのも寝るだけの部屋さ。寝るまではリビングで家族みんな一緒。日本じゃどうだい、子供に部屋与えれば部屋にこもりっぱなしで、生活はみんなバラバラで何日も顔見てないなんて家族、多いんじゃないのかな、同じ家にいたって。子供に責任はないさ、親が無関心だから子供がそうなってしまうんだよ。夫婦もバラバラ、子供もバラバラ。まぁ、もちろんすべての日本家庭がってことじゃないけどね」


 英子も敏也も、そして綾香も晃の話にじっと耳を傾けている。綾香にも感じることが多いのであろう。


「俺は啓子とずっと一緒だ。じじい、ばばあになっても手繋いで歩きたいね」


晃は話を閉め、啓子の手にそっと自分の手を重ねた。


 そして晃から綾香にお年玉が手渡された。


 綾香はこのお年玉をいつなんどきもポケットに入れ、ポチ袋はもう擦り切れて今にも穴が開きそうな状態だ。見かねた英子が端切れで巾着を作り、首からぶらさげお守りのように大切に持ち歩いている。
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