紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 旅立ち 2


 少女は普通列車を乗り継ぎ、住所と同じ名前の駅に降り立ったが、写真の風景などどこにも見当たらない。


 交番に入り写真集に出ていた住所を尋ねると、対応した初老の警察官は、住所、氏名、生年月日など多くの質問をし、入った無線に返事をしてその場所をようやく教えてくれた。それはただ、ロータリーを挟んで目の前であるだけだ。


 少女が礼を告げ交番を出ると、警察官は少女が尋ねた写真館に電話を入れ、


 「捜索願いは出ていないが、家出と思われる少女が向かった」


と伝え、心配そうに写真館に入るのを見届けていた。 


 店の中は広く、カメラを見ている客、写真をプリントしている多くの客で賑わっており、制服姿のスタッフも忙しく動き回っている。声を掛けられることなく書籍コーナーを見つけ、ビニール袋に入れられた写真集を手に取り表紙を眺めていると、


 「いらっしゃいませ。写真集がみたいのかな。よかったら事務所にサンプルがあるのでご覧になりますか」


と、階段から足早に降りてきた私服の女性スタッフに声を掛けられた。


 3階事務所に案内をされ、ソファーに腰を降ろすと、数冊の写真集とオレンジジュースがテーブルに置かれた。


 少女は「源流」と題のついた写真集を手に取り厚い表紙をめくると、綺麗に澄んだ水が溜まり、中から気泡が出て、水面にはいくつもの弧が描かれ光り輝いている。辺りには苔が生え、まるで緑のカーペットを敷き詰めたようで、森が奥深くまで続いている。美しい風景を切り取った写真集ばかりではなく、「怒り」と題された写真集には、火砕流、土石流など自然の持つ驚異が写しだされる。


 今日列車の中で、生まれて初めて見た富士山の美しさに、思わず声を出してしまったが、噴火を繰り返し出来た山と知識は持っている。火砕流も土石流も人から見れば災害だが、長い年月を掛けて形成される地形の変化に過ぎず、人間などは小さな存在であると感じている。


 写真集を見始めて一時間程経った頃、女性が時計を見ながら


 「戻らないといけないんだけど、もしよかったら一緒に遊びに来ない」


と、声を掛けられ、行く当てもない少女はうなずき、写真集を閉じテーブルに重ね合わせた。


  女性は少女を車に乗せ、


 「ここで少しだけ待っててね、すぐに戻るから」 


と伝え、少女から見えないことを確認して派出所に入った。


 「先ほどはお電話いただきありがとうございました。悪い子には思えないし、私が責任を持って預かりますので、もし捜索願が出されたらすぐに連絡をいただけますか」


と警察官に伝え、小走りで車に戻っていった。


 車の中で女性は、


 「私は竹内英子、33歳でまだ独身なの。宜しくね」


と優しく微笑み自己紹介をし、少女も、


 「私は綾香。平居綾香って言います。15歳で東京から来ました」


と、自己紹介をして返して来たが、少女からまだ笑顔を見ることは出来なかった。


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