紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 夫婦 1

 
 新年が明けるとギャラリーでは、元旦から家族写真の撮影に予約の客が訪れる。写真館で撮影は行われるのだが、ギャラリーではカメラマンに敏也を指名する客を招き、趣の変わった撮影が行われる。


 ここ数年来、毎年3日の最終日に予約を入れる客がいる。映画俳優の渡辺晃と啓子夫妻だ。敏也が渡辺の主演映画の音楽を担当したことから付き合いが始まり、啓子の写真集も手掛けている。 


 映画は賞こそ逃したがかなりの興行収入を得て、インタビューに答えた渡辺は、


「この映画の成功は音楽にある」


と語っている。敏也は映画の主題曲はもちろん、挿入曲、効果音に至るまですべてメロディを書き、既存の曲は一切使うことをしなかった。映画の好調さもありサントラ盤の発売も企画されたが、敏也は認めることをしなかった。


「映像があってこその音を作ったつもりだ」


と、理由を語っている。


 また女優啓子の写真集においては、人物を普段撮ることのない敏也が、自然の中に調和する人物をテーマに創り上げた。こちらもかなりの販売部数を記録している。その後、他の女優をモデルにと何件かのオファーも来たが、


「私はこの作品に、今の持てる力のすべてを注いだ。人物を撮った作品でこれ以上の作品を残せるとは思えない」


と、すべてを断っていた。


 敏也は写真家として活動をする以前は、音楽家として活動をしていた。学生時代からクラブ回りを始め、日本を代表するペット奏者に見出され多くのレーコーディングに参加した経歴を持つ。今は主だった活動をしていないが、引退はしていない。


 「あけましておめでとう」


 一際大きな声がギャラリー入り口に響き渡り、手に一升瓶を抱えた渡辺夫妻がやってきた。この渡辺も自分の仕事に信念を持ち、バラエティ番組などの出演は何度かあるものの、テレビドラマで演じることはなく、テレビと映画の世界に線を引いている。活躍する場は違うが、二人の男には通ずるものがあるのであろう。
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