「家族」 思い、重い、カメラ 1
綾香はフィルム一眼の購入は諦め、普及品のデジタル一眼を視野に購入を考えている。
「無理なものは仕方ない、諦めよう」
自身に言い聞かせるほかはない。店舗でローンの分割支払いの案内を見て佐々木に尋ねたが、
「ローンを組んでまで買うことは、先生も英子さんも反対するよ。もちろん俺も反対」
と強く言われている。
綾香から相談を受けた英子は、
「そうね、まず綾香が自分の力で出来ることって考えて出した結論であれば、それが正解ね。ただ、カメラ自体で考えるとね、フィルムカメラであれば、値段の高い、安いはそれほど問題でもないのね。今は高いのしかないけど、高いカメラは丈夫に出来てるだけ。写真を写すことに関しては、カメラよりレンズのが大切かなって思うの。ただ、デジタルの場合はそうじゃないのね。そこもしっかり考えて結論だそうね」
と答え、どうも綾香には選択肢はなく、購入の先送りしかないようだ。
二人のやりとりを聞いていた敏也が、何かにやけた表情で口を挟んだ。
「私のカメラは現役だから、はいどうぞ、これ使って、とは言えないけど、ここに眠ってるフィルムカメラあるじゃない、英子さん。もう何年も防湿庫に入りっぱなしで、誰か使ってくれないかなぁ~って寂しがってるよ」
英子は、はっと忘れていた自分のカメラの存在を思い出した。かつて敏也も英子のカメラを触り写真を覚え、今がある。慌てて保管庫から取り出した懐かしいカメラに思わず涙が溢れそうだ。
「ねえ、綾香、私が先生の先生なのよ」
と英子は気を取り戻し、綾香にカメラの使い方から敏也に教えたのは自分であると自慢げに話してる。ニコニコとうなずく敏也を見て綾香は驚くばかりだ。
「綾香、よかったらこのカメラ使ってみない。明日、佐々木さんにメンテナンスしてもらって、レンズ買って」
手渡されたカメラはずっしりと重く、英子、敏也と引き継がれた思い出のカメラを綾香はより一層重く感じていた。
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