紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 旅立ち 4


 食事をしながら綾香は、


 「今日、初めて富士山見たんです。綺麗だったぁ~。それにね海も初めてみたの。そのとき思ったんだけど、地球って本当に丸いかも知れないなって、変でしょ、私。地球が丸いなんて見たこともないし、感じたこともないし」


と微笑む。英子はうなずきながら話を聞き、


 「そうね、綾香ちゃんが自分の目で見て、感じることが大切よね」


と、忘れかけていた大切なことを、自身に言い聞かせるように話した。


 片付けも済みしばらくくつろいだ後に、二人で一緒にお風呂に入った。


 このギャラリーの二階には、ホテルのような個室が何部屋もあり多くの人が宿泊出来る。そして大きくはないが露天風呂もあり、町の持つ源泉から一定金額で供給され、天然の温泉が楽しめるのだ。
 
 宿泊施設としても温泉施設としても、営業許可は得ておらず一般に開放はしていないが、ギャラリーやカフェの客で知るものも多く、希望すれば断ることはしない。無論無料で提供されているが、利用者が脱衣所にお金を置いていくので、利用者の提案により募金箱が用意され、貯まったお金で近くの養護施設に物品を購入し寄付をしている。利用する常連客も、何を買うか話をすることを楽しみにしており、寄付をする側にも幸せを与えてくれているのだ。


 バルコニーの一画に造られた露天風呂に、二人で浸かり話をしていると、おもむろに英子が電気を消したのだ。驚いた綾香が声を上げるが、するとどうであろう暗闇の中に数点の星が輝いていたのが、見る見る内に満天の星空に変化をしてしまったのだ。思わず綾香は


 「いったい何、これ。こんな綺麗な星、見たことがない。星ってこんなに多いんだ。あ、流れ星だ」


 何もないところ、だからこそ見ることが出来る星空に大はしゃぎだ。決して東京では見ることが出来ない景観であろう。同じ空であると言うのに。


  お風呂から上がり、綾香はすぐにベッドに潜り込み深い眠りに就き、あまりにも多くのことを経験した一日を終えようとしている。また英子は、自分の昔を振り返り一人グラスを傾けていた。
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