紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 英子 1


 3人での撮影は滞りなく行われ、撮影の合間に綾香もフィルム5本分程撮りためていた。綾香がカメラを構えても、英子も敏也も何も口を挟むことはなく、本人の思うように撮らせている。決して放置ではなく、聞かれることにはきちんと答えている。


 写真に正解、不正解などはなく、撮り方を定めたルールも存在しない。意図的にピントを外すことも、露出を操作し、非現実的な描写で切る撮ることもすべては撮影者の感性で、撮影者がよしとしたものが正解である。受け入れられる、受け入れられないは、また、別の話だ。失敗であれば自分で気付き修正すればよいことで、方法がわからなければ、学べばよい。聞くことも学ぶことである。


 アシスタント業務も、荷物運びから始まり、敏也が指示を出す前にレンズが準備されるなど、多くの進歩をみせた。状況により、どのレンズが適切なのか、しっかりと理解が出来たようだ。


 綾香が撮影現場で特に感じたのは、動きまわる敏也の姿だ。被写体をどこから、どの角度で狙えばいいのか何度も何度も位置を変え、最良のポジション見極める。露天風呂の入浴シーンでは、湯の中に三脚を立て、湯面ぎりぎりにカメラを据える。もちろんずぶ濡れであり、妥協を許さないリアリティの追求に驚かされる。また、モデルの英子は、まるで小説の主人公千晴の魂がのり移ったかのように、見事に演じきったのだ。


 小説の連載が始まると、出版社にモデルは誰、撮影したカメラマンは誰、との問い合わせが多く寄せられ大きな反響を生んでいる。


 今回の連載はあくまでも小説がメインであり、モデル名、撮影者ともに敏也側の要望で記載はされていない。


 インターネット上では特にモデルに関心が強いようで、10年以上前に失踪したファッションモデルKEIではないかと噂が広まりだした。当時のファッション誌と連載中の週刊誌を比べて掲載するサイトもある。そして、TVのワイドショーが追跡調査を行う程に事態は発展していく。
                                 18

×

非ログインユーザーとして返信する