紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 思い、重い、カメラ 2


 綾香はザックにカメラを入れ、写真館に自転車を走らせた。カメラのメンテナンスを佐々木に依頼し、レンズの選択に入っている。佐々木のアドバイスもあるだろうが、綾香がどんなレンズを買うのか、英子も敏也も楽しみにしている。


 「これが、英子さんのカメラで、先生はこのカメラで写真を始めたんだ」


カメラを手にした佐々木が羨ましそうにカメラを見つめ、


 「綾香ちゃん、このカメラ俺に譲って!」


と懇願している。さすがの綾香も苦笑いを浮かべ丁重に断り、


 「ちゃんとお金払うんだから、しっかりメンテナンスしてくださいよ」


と茶目っ気たっぷりに受け答えをしている。


 カメラはとても保管状態が良く、外観にそれなりの使用感はあるものの、オーバーホールし経年劣化したゴム製部品の交換と、各部の汚れを取り除くだけで済んだ。


 レンズの選択は綾香が何を選んで相談してくるか佐々木も楽しみで、レンズの特性はしっかりと教え込んだはずだ。


 綾香は二本のレンズに絞りカウンターに持ち込み、自分のカメラに装着し覗き込んでいる。共に単焦点レンズで、広角24mmと中望遠85mmだ。佐々木は安易にズームレンズを選ばずにほっとした表情を浮かべ、


 「後は、綾香ちゃんが何を撮りたいかだよね、風景なのか人物や身の回りの物なのか」


と最終のアドバイスをするだけで済み、佐々木の教えはしっかりと理解しているようだ。


 綾香はやはり、被写体に風景をより多く選ぶであろうと、風景写真には外すことの出来ない広角レンズを選んだ。後は高性能レンズか普及レンズかで迷い、最終的に24mmF1.4(*1)の上代235,000円の高性能レンズを選んだ。そして、佐々木の勧めで、取り扱いには難易度が高いが、PLフィルター(*2)の購入も決めたようだ。


 店舗での5%の値引きと、後日、給与で反映される従業員割引を差し引いても、消費税合わせて20万円は裕に超えてしまう。しかし、広角でこれ以上のレンズはなく、写真を追究し続けるのであれば、普及レンズを買うことが無駄となる。正直、佐々木も16歳の少女が持つべきレンズなのか悩んではいるが、決めるのは本人だ。それに仮に今後写真と離れてしまうことがあるとしても、このレンズなら状態がよければ高価に買い取りもしてくれる。その点、普及レンズを買えば、買い取り値は限りなくゼロに等しい。


 綾香は嬉しそうにレンズとフィルターをザックにしまい店を後にした。


「ただいま~、めっちゃくちゃ高かったよ」


とニコニコの笑顔に、英子も敏也も満足な笑顔を見せている。


「あ、フィルム買うの忘れた。写せないよ」
                                 17
                                  
F1.4  レンズの明るさをF値で表し、数字の少ないものがより明るいレンズ。
    明るくなるほど少ない光量でも撮影が可能。


PLフィルター 偏光フィルター。光の反射を取り除き、被写体本来の色調を鮮やかに映 
        しだすフィルター。

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