「家族」 カポクォーコ 1
「おはようございます」
朝、チェックアウトの客を見送り、女将と坂崎夫婦がちゃりんこカフェを訪れた。雪子は買出しを綾香と英子に頼み、すでに仕込みに取り掛かっている。
「雪ちゃん、何でも指示してよね、今日は雪ちゃんが板長だから」
「あなた、板長って、おかしいでしょ。シェフって呼ばないと」
「幸さん、シェフはフランス語ですよ~、今日はイタリアンですからね。あれ?でもイタリアンだと何て呼ぶんだろう」
敏也は笑いながら、シェフはフランス語で頭の意味で、イタリア語で料理長はカポクォ-コだと説明したが、
「料理長でいいでしょ、ここ日本だから。ね、雪子料理長」
「う~ん、料理長かぁ~、いい響きだぁ~。もっと呼んで、もっと呼んで~」
イタリアではお酒とおしゃべりを楽しみながら、ゆっくりと食事をする。お酒を止めていると言う幸以外に食前酒が用意され、Antipasto(前菜)が4皿並べられ、ワインも用意された。彩りよい野菜が使われ見た目にも楽しませてくれる。食事が始まり、みなの進み具合を見て雪子はキッチンとテーブルを行き来し、坂崎もアシスタントをこなしている。フレッシュ・ハーブの使い方もよく研究したようだ。
Primo piattoには、普段カフェでパスタを提供しているので、リゾットが4品用意され、米の品種にも拘りをみせたようだ。大粒のイタリア米が使われ、粘りもなく、綺麗に煮込まれている。米の中央にわずかに芯を残し、食感も楽しめる。ブロード(出汁)も具材により使い分けたようだ。
Second piattoには、ラムも使われ、ニンニク、香辛料の使い方が的を得ている。ラム肉特有の香りと相まって食欲をそそる。
ワインが何本空いたであろう。さらに坂崎と敏也はチーズをつまみにワインを開け、女性陣はDolceを楽しんだ。坂崎が思わず、
「う~ん、すごい刺激的だ」
ともらしたゴルゴンゾーラを綾香が口にすると、顔をしかめ吐き出し、つぶやいた。
「だめだ、これ。私、美食家じゃなくてよかった」
雪子はゴルゴンゾーラの中でも、特に青かびの強い、ピカンテを用意したと言う。