紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

「家族」 展開 1

 
 ちゃりんこカフェに無事に戻った綾香に、敏也はホーム・ページの更新を頼んでいた。


「清流荘の紹介を加えて、サイクリング・マップや観光案内を入れていきたいんだ。サイクリング・コースにはトイレや休憩ポイント、あと、危険箇所には迂回路があれば案内できるといいな。それから、コンビニ、飲食店に駐輪用のラックやポンプの設置をお願いして、協力店には、サイクリスト歓迎のお店として紹介していくんだ。写真をたくさん使って」 


 綾香は伊豆の地で、大好きな写真に携われることができ、毎日、取材、撮影に飛び出し充実した日々を送っている。失いかけた輝きを取り戻すのに、それほどの時間はいらないであろう。


 一方、吸収して経営に携わることとなった清流荘は、多くの問題を抱え、根本的に改革が必要だ。顧客、地元への信用回復には多くの時間を費やすであろう。女将と話し合いの中で、普段の敏也からは想像もできない厳しい言葉も出ているようだ。


「このまま営業しても客の満足を得られることは出来ない。改装を名目に一旦閉めよう。新装後、番頭、仲居さん達には引き続き仕事をお願いしたいが、あなたのご主人である調理責任者を雇用するつもりはない。夫婦の関係に口出しはしないが、旅館からは退いてもらう」


 敏也が出した非情とも思える結論は、女将が一番理解していることでもある。


 話し合いの中で、改装後のオープンでは、一日の予約組数を5組までにし、順次増やしていく。部屋数の4分の1である。利益が出ることはないが、スタッフに力が付くまで増やすことはしない。


 そして屋内に自転車の保管場所、整備、洗車スペースを設けサイクリスト歓迎を打ち出し、予約客とは別に、サイクリング客の宿泊困難者を素泊まり、または朝食付きで、受け入れることも決めた。


 坂崎夫妻が東京からやって来た。坂崎も新装開店に向け精力的に動き、市場をまわり取引先の開拓に余念はない。料亭では板長の力もあり、動くことなく最良の食材が届けられていたが、信用のない他所者が業者任せにすれば、粗悪な食材を掴まされるだけだ。


 坂崎の料理はもちろん、姿勢、取り組みは、修行経験のない雪子にも良い影響を与えているようだ。そして、坂崎も自分の経験、知識、技までも惜しみなく雪子に伝え、雪子はより一層料理の研究に励んでいる。


 そして敏也は英子にしばらく伊豆に滞在し、清流荘を指揮しながら臨機応変に動ける体制を取るよう指示を出していた。


 そして敏也は、伊豆半島サイクリングの起点となるJR三島駅周辺に、頻繁に出かけるようになっていた。
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