紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

出来ることならば初話からお読み頂ければ幸いです。

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 連載中

「家族」 対面 1

 
 スタッフが食事を終え、くつろぎながら雑談をしていると、入り口から


 「ただいま」


と一際大きな声が響き、スタッフは一様に席を立ち姿勢を正してその男を迎え入れる。みなで手分けして車から荷物を降ろす者、二階へと運び込む者とに別れ、てきぱきと片付けている。英子が近づき


 「お疲れ様です」


と声を掛けると、男はおもむろにサーバーからビールを注ぎ、一気に飲み干し、2杯目を注いでいる。そのときに綾香が呼ばれ英子から紹介をされたのだ。


 「私は、城山敏也。宜しく」


とだけ答えソファーに腰を降ろした。アルコールを口にした敏也は自宅に戻ることはなく、このギャラリーに滞在することを意味する。


 2階から、撮影に同行した佐々木が降りて来て、敏也と英子に挨拶をし店を後にしようとすると、敏也が


 「明日はいいから、しっかりと身体を休めろ」


と言葉を掛け見送っている。


 佐々木は、敏也に憧れ弟子入りを希望し、大学卒業後に実家を離れこの地にやってきた。敏也には弟子を取るつもりなど毛頭なく、正規の給与が支給される雇用契約をし、撮影のアシスタントとして採用された。今は写真館のチーフカメラマンを勤め、商品の仕入れ、店舗スタッフの教育も任され店長の職務に当たっている。山岳地の撮影にはアシスタントとしても同行し、敏也から絶大な信頼を受ける男だ。


 他のスタッフも持ち場に戻り店の片付けに入ったが、綾香は敏也の側を離れることなく、多くの質問をしている。その姿を見て、気にかけるスタッフなど誰もおらず、綾香が思う通りに行動すればよいことで、当の敏也も笑顔で受け答えをしている。


 閉店してスタッフが店を後にすると、綾香、英子、敏也は揃って2階へとあがり、綾香は英子の夕飯の準備を手伝い、敏也は荷物の整理に当たっている。綾香の興味は敏也の撮影機材にあるようで、英子を手伝いながら敏也を覗き込んでいる。敏也がテントを広げにバルコニーに出ると、


 「綾香、先生一人だとねテント広げるの大変みたいよ、お手伝いしてあげて」


と優しく気をまわし、綾香は勇んでバルコニーに飛び出して行った。テントも軽量化されており一人で大変なことは何もないのだが、敏也も綾香を受け入れ笑顔で一緒に片づけをしており、どこか微笑ましい光景だ。


 片付けも済み食事の準備も整い、3人での食事だ。敏也は綾香が住み込みであるとの説明は受けていないが、何の違和感もなくその空気は一体化しているのだ。食事の最中に敏也は


 「なあ綾香、明日写真館で今回の撮影の現像をするんだけど、遊びに来るか」


と誘い、返事に困って綾香は英子の顔を覗き込むと、英子は笑顔でうなずき、


 「はい、一緒に行って、お手伝いします」


と元気いっぱいの返事だ。


 綾香は食後もソファーに腰を降ろし、敏也の撮影地での話を目をまん丸にして聞いている。しかしここでさすがの英子もストップをかけて、敏也をいち早く休ませることにした。
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