紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

出来ることならば初話からお読み頂ければ幸いです。

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 連載中

「家族」 旅行 2


 翌朝、宿が指定する時間の朝食を待っていては行程に無理がある。予約の際に、何かしらの代替ができないか打診したが、対応できないとの返事であった。朝食はコンビニで買い込んで八ヶ岳を目指した。


 八ヶ岳とは特定の峰を指した山の名前ではなく、いくつもの山が連なった連峰である。南北に別れ、併せて20km以上に及ぶ火山郡の総称で、目指したのは南八ヶ岳の主峰赤岳から横岳、硫黄岳の縦走である。


 初めて登山をする者もおり、随所に休憩を入れ、かなりのスローペースで登っている。やがて赤岳の頂を目指す尾根に出ると一気に視界が開け、南アルプス赤石山脈の展望ができる。そして、山頂に着くと360度の大パノラマが待ち受けていた。


「うあっ、富士山だ、おっきい、すごいねー」


 初めて山の頂に登り富士を見た雪子は大はしゃぎだ。そして綾香が、南方の南アルプスに身体を向け、指を差し、


「ゆきねー、こっちの一番高い山が北岳で、2番目に高い山なんだよ」


 山のことはより多くの知識を持つ綾香は、得意そうに話した。


「凄いね、綾香。ここは一番高い山と二番目に高い山がいっぺんに見れるんだ。ほんと綺麗」


 山頂に辿り着くまでには、きっと苦しいと感じることもあったであろう。それ故にここで見られる景色はより感動を与えてくれる。雪子も今日見た美しい景観を、決して忘れることはないであろう。


 綺麗な景観の中で昼食を済ませ、さらに足を進めた。赤岳山頂から尾根を伝い、横岳に向かうと高山植物が一行を出迎えてくれる。白、黄、紫、赤、色とりどりの花が咲き誇っている。花を摘み持ち帰りたいと言った雪子に敏也は、


「絶対にダメ。ここで見るのが一番綺麗なんだよ。花だって一番綺麗に見られるところで咲いていたいさ」


 花畑を過ぎ、しばらくすると山小屋が見えてきた。今日の宿泊場所だ。敏也が扉を開け声をかけた。


「こんにちは」「お世話になります」「おばちゃん、こんにちは」「初めまして」


「あれ、写真の先生、いらっしゃい。綾香ちゃんも一緒やね。あれま、今日はまた懐かしい顔が、確か英子さん、、、そうそう英子さん」


「ご無沙汰しております。覚えていてくれてたんですね、ありがとう」


「さあさあ、部屋に荷物入れてゆっくりしてや、な~んもないけどな」


 清流荘の女将は頭の下がる思いであった。


 シャワーを交代でする間、外のベンチにみんなで腰掛け、景色を見ながらビールを開けていた。八ヶ岳の山小屋はシャワー、お風呂の設備もある山小屋も多いのだ。ビールを手に坂崎が叫んだ。


「最高ですね、こんな美味しいビール初めて」


 夕食の準備が整い食事が始まった。豪華な食材などどこにも見当たらない。名店と言われた店で修行をし、一流の料理人である坂崎も


「私が作る料理など、いったいどれ程の感動を与えられるのか。今、頂いている食事に遠く及ばない」


 状況は違えど、これが食事の持つ素晴らしさであろう。食べることへの感謝、食材への感謝を坂崎は言葉にしていた。雪子も同じ料理人として感じることも多いであろう。食事の途中に山小屋のおかみさんが訊ねた。


「先生、明日の朝はどうするだかな?」


「ええ、夜明け前には出発して山頂で日の出をみようかと」


「ほんなら、朝ごはんにおにぎり作っとくわな」


「はい、宜しくお願いします」


 昨夜の宿とは大きな違いだ。


 夕食が終わると、雪子と綾香が英子に、敏也も一緒に話があると伝えていた。英子と敏也も同じであり、英子が二人を外に呼ぼうとしたところであった。


「じゃあ、先生から先に話してください。私達はその後で」


「そうか、わかった。雪子、綾香、私達の娘になって欲しい。もちろん二人で相談することも、誰かに相談することもいいんだけど、あくまでも自分の意思で決めて欲しいんだ。英子と話して来月初めに入籍することにしたんだけど、そのときに養女として迎えたいんだ。4人一緒の家族」


 雪子も綾香も言葉を失い、見る見るうちに目には涙が溜まり、今にも溢れ出そうだ。しばらく沈黙していた敏也は


「今すぐ返事をくれとは言わないから、ゆっくり考えて欲しい」


こう言って敏也は英子と一緒に二人に頭を下げていた。


「今度は二人の番だね」


「これ、綾香と一緒に選んだんです。4人お揃いの指輪、、、綾香も私もずっとお二人の娘のつもりでいま、、二人が結婚した後もずっとそう思って、、、それで、この指輪は、、、4人の絆、、、その証し、、、」


 綾香から英子、英子から雪子、雪子から敏也、敏也から綾香にリングがはめられた。


 綾香も英子の目からも涙が溢れ、涙をこらえて精一杯話した雪子の目からもとうとう涙が溢れ出してしまった。敏也も、また、涙をこらえることができなかった。


 暗くなりかけた空に、うっすらと星が輝き始めた。もうまもなく満天の星が夜空を飾るであろう。
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