紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

コラム “NB”

 
 最近街中でこのロゴをよく見かけます。靴もウエアも、、、


 そしてなんと自転車まであるんですよね、びっくり。きっと委託生産でロゴ貼ってるだけって思うんですけど、、、ちなみに、私もこの ニューバランス のチャリ用ウエア持ってます、はい。本職は「靴屋さん」ですね。


 で、今回のコラムはこの「ニューバランス」とはまったく関係ない話で、、、ごめんなさい。


 「なんちゅう、バランス」した奇石の紹介ってことで、NBって付けてみました、、、おいっ!


 この岩は私が好んで登っていた鈴鹿山脈の主峰「御在所岳」の中腹にあります。家から近いってのが正直なところですが、、、ロック・クライミングの出来る山としても、ちょっとだけ有名ではあります。


 鈴鹿と言えば、そうF1レースが開催される「鈴鹿サーキット」の鈴鹿です。セナもきっとこの山、見たんだろうなぁ~、興味ないんだろうけど、、、あ、F1レーサーは移動で、列車、車なんて使いませんよ。ヘリコプターで移動しますんで、上空から、ちらっと見たかも、ですね。チケット高いわな~そりゃ、、、


 鈴鹿スカイラインから「中道登山道」に入り、ブナが生い茂る山中を抜けると視界が一気に開け、下界に濃尾平野が広がります。


 季節により、遠く冠雪した乗鞍岳、御岳も望め、気象条件があえば2月期には富士山も望むことが出来ます。300キロ近い距離があるのでは。


 多くの奇石を配したこの「中道」は、特に人気のルートで多くの人が登山を楽しんでいます。


 そして、登山道に入り、一時間弱でこの「地蔵岩」に到着します。初めて見たときは、そりゃびっくりするわ、いったい誰が乗せたんだろうか、な~んて考えてしまうほど、絶妙なバランスで乗っかっています。「自然の力」恐るべしって感じですね。

「家族」 登山資格 2


 敏也は連休中も、自宅に戻る気配は見せず、カフェに滞在を続けている。もちろんカフェでの宿泊は全ての従業員に許されるもので、役員とて例外ではない。休日前夜には知人、友人を伴いカフェで宿泊し、早朝に山を目指す写真館のスタッフも多い。


 綾香は敏也から借りた本に集中し、連休中の時間の多くを読書に費やしている。命の危険性を理解し、自己責任に於いて山と向き合うことができるか、山を諦めるのか、決めるのは綾香でしかないのだ。
 敏也がリビングに顔を出せば捕まえ、本に書かれていて理解出来ないことや、敏也の山での体験も含め多くの質問をしている。自分が綾香に投げかけた課題の責任もあり、敏也もしっかりと受け止め答えている。そして遭難救助に当たった経験を綾香に話した。


 6年前の9月、英子を伴い撮影に入った山で遭難があり、滞在した山小屋の主人らと救助に当たったことがある。幸いに誰一人怪我人もなく救助できたのだが、あまりにも軽率な行動、過少装備などに驚かされた。また救助要請も「動けない」との理由だが、「動けない」ことと「動きたくない」ことはまったく意味が違う。県警からの無線で怪我はないと聞いていたので、ハンガーノック(*1)で意識低下も考えられ救助を急いだ経緯もあった。動けないとした女性が、山小屋に着き安心して気を緩めたのであろうが、放った言葉も忘れることが出来ない。


「なんだ、ヘリコプターじゃないのね、残念って思っちゃた」


 こちらは危険を伴う中、一時間以上暗がりの山道を探し歩いたのだ。自分の行動に見返りも感謝の意を求めることもないが、怒りを通り越して呆れ果ててしまった。


 山はいくら用意周到したとしても、予測不可能な事態に陥ることもある。だから、困っている者がいれば全力で助け合う。しかし、ここ近年の遭難の多くは、ただの認識不足だ。少なくとも綾香には理解して欲しいことで、理解できるまで、山岳地の撮影に連れて行くことはないであろう。
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 (*1)ハンガーノック 運動中に起きる極度の低血糖状態。自己の意思とは関係なく身体  の動きが止まる。耐久スポーツの分野で使われることが多いが英語ではないのでご注意を。英語表記では Hitting the wall

「家族」 登山資格 1


 クリスマスを終えカフェはしばらく休暇に入る。年間を通じ連休はこの期間だけで、敏也も撮影の日程をこの日に合わせ調整をしている。

 カフェの前にそびえ立つ山は中腹辺りまで雪に覆われた。


 綾香は英子と出かけたサイクリング途中で、休憩に立ち寄ったコンビニの駐車場から、山を眺めている。英子が店から出て


「きれいね」


と声をかけると綾香は


「ねえ、英子さん、あの山登るの大変かな」


「もちろん大変よ。雪がなくっても山登りは大変だもの。私もあの山が大好きでよく登ったな。鹿さんには毎回会えるし、一回だけカモシカさんにも会えたかな。あの山の奥にはまだまだ山があってね、反対側に降りると渓谷になってて、そこが一番きれいかな」

「いいなぁ。私も登ってみたいな」


「そうね、雪がないときに登ってみようか」


 綾香にとって雪化粧をした山は魅力的だが、やはりこの時期の登山はよほど危険なのであろう。


 今日の現像作業は、写真館に敏也へ来客の予定があり、同行することが出来なかったが、綾香と英子がお茶を楽しんでいる夕刻前にはカフェへ戻って来た。


 綾香は英子の山の話に耳を傾け、敏也はビールを注ぎテーブルに着いた。山に登りたいと願う綾香に敏也は棚からおもむろに数冊の本を取り出し綾香に渡している。


「まずはこの本をしっかり読んで、それからだな」


 手渡された本は


「山岳遭難の教訓」「道迷い遭難」「気象遭難」の三冊で、いずれも著者は羽田治とある。


 綾香は、如何なることにも前向きな姿勢を通す敏也に、写真家としてだけではなく一人の人間として尊敬の念をも抱いているが、自分が予測した返答とは違った反応を見せたことに驚いている。


「山は興味本位の憧れだけで立ち入るところではない」


 楽しい会話に水を差してしまった結果になったが、英子も敏也の言葉にうなずき、綾香を見つめている。


 自然と山を愛する敏也は、自然の、そして山の怖さも知って初めて好きになれること。下界の守られた環境で、山が好きだと思うことも憧れることも自由だが、立ち入ることは別だと話す。


 綾香にとってネガティブな発言に取られてしまったようだが、敏也にとってはもちろん前向きな姿勢で話したことだ。


 撮影で山に入ると、多くの登山者と行き交う。十分な経験と豊富な知識を持ち合わせた登山者だけではない。軽装で食料も十分持たず、登山届けすら出さずに山に入る。どんなベテランでも初めて山に入ることを経験し、誰しも初心者から経験を積む。初心者は山に入るななどと唱えるつもりはなく、ただ、安易な気持ちで山に入る登山者をみて残念に思うのだ。


 安易に入山し、遭難すれば多くの人に迷惑をかける。安易な救助要請も多く、他人をも命の危険にさらす。事実、救助隊員が命を落とす事例も後を絶たない。


 綾香が山に憧れ、登山をしたいのであれば、そこから考えてスタートして欲しいと敏也は願った。
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