紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 脱出

 朝、目が覚め窓から外を覗くと、昨夜から降りだした雨がまだ残っている。


 盗難の件もあり、憂鬱でこの地からいち早く出たい気分だ。何と表現していいのか適切な言葉が見つからないが、とても不思議な感覚なのだ。何しろこの地に留まることが嫌で嫌で仕方なく、逃げたいに近い感覚である。


 朝食を済ませ、駅まで数百メートルを自転車で走行し、袋詰めにした。


 路線図を確認しながら南に下ることも考えたが、適当に1,000円ほどの乗車券を買い向かった先は上り方面のホームであった。


 ホームで列車を待っていると、観光列車Aトレインがホームに入るアナウンスが聞こえ、デューク・エリントンの軽快なジャズナンバー「A列車で行こう」がスピーカーから流れている。なかなかの演出だ。





Duke Ellington and his Orchestra - Take The A Train (1962) [official video]



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 最近JR各社は多くの観光列車を運行し、顧客の開拓に努めとても喜ばしいことだ。自家用車を利用せず列車での観光が増えれば、渋滞も、排気ガスも軽減され、痛ましい事故もきっと減って行くことであろう。
 ただ、各地に走らせていた寝台列車、夜行列車の運行を止め、驚く金額のする列車の旅だけになってしまったことは少し残念に思う。


 上り列車に乗り込んだのだが車窓からの景色を眺めながら、南に下ればきっともっと素晴らしい景観が待ちうけ、多くの感動を与えてくれるであろう。この地を訪れることなど何度も機会があることではなく、悔いを残すことはないだろうか、多くのことを考えていた。戻るなら、今しかない、、、


 しかし動くことはなく、列車に身を任せ終点駅に着いてしまった。


 雨は激しく降り続けている。


 売店で食料とビールを買い、引き続き上り列車に乗り込み、35年ぶりにこの地に降り立った駅も通り過ぎて行く。


 数回列車を乗り継ぎ、とうとう海峡を越えてしまったが、雨が止むことはなかった。


                         Primo piatto(第一の皿)終り


 今、書いている紀行は昨年の4月に行った旅の思い出を残しているもので、楽しくて仕方なかった旅が、フェリーで訪れた地から無性に嫌になってしまったことが、自分でも信じられない程不思議です。
 盗難にあったり、多く道に迷ったりもしてその気持ちが大きくなったのだが、旅に出れば想定内の事で、


「早くここから抜け出したい」


とまで思うことは普通では考えられない。


 まだまだこの先旅を続け、自宅に戻った後、この地で大きな地震が発生してしまった。


 私は、、、野生人なのかもしれない。

Primo piatto 嫌な予感


 船は出発した港から湾を渡り対岸に入港し、中心部から見て西の外れだと聞き市街地を目指した。おおよその距離を聞いていたが、その距離を過ぎても駅は見当たらず、かなり遠くまで来てしまったようだ。休憩がてらコンビニに立ち寄り、道を尋ね、再度駅周辺を目指した。


 かなり道に迷い駅に到着したものの、大きな風呂に入りたい欲望からカプセル・ホテルを探したが、見つけられず派出所に入り聞くことにした。駅と繁華街が離れており、繁華街にカプセルがあると教えられ、さっそく向かってみることにした。


 スマホ全盛の時代にあって、派出所に道を尋ね訪れる者が果たしているのであろか。私は今回の旅で何度目であろう。 


 途中コンビニで再度コーヒーとタバコを一服した後、川沿いに出て堤防を追い風にのってとても快適な自転車走行だ。結構なスピードもあってメーターを確認しようとみると、なんとメーターが抜かれている。サイクル・コンピューターがなくなっているのだ。たった数分自転車から離れただけだが、どうも先ほどのコンビニで盗まれてしまったようだ。       自転車の購入と共に買い求め、今までの記録がすべて消えてしまったことになる。たった数分でも抜かずに放置した私にも落ち度があり、起きてしまったことは諦めるしか方法はない。


 失意の中、カプセルに到着すると何か陰湿で、清潔感がまるでないのだ。駐輪場も乱雑で、先ほどの盗難もあり繁華街はどことなく異様な雰囲気を醸し出している。


 再び駅周辺に戻ることを決め自転車を走らせたが、またも道迷いでかなりの時間を要してしまった。この地には縁がないのかと感じ始めていたのだ。


 戻る途中お城を少し見学し、駅周辺に到着しルートイン駅前店を見つけた。玄関先に自転車を立てかけフロントの様子を窓越しに窺うと、女性スタッフと男性スタッフが待機している。中に入るとなかなかの美形で、ここでは整理券を取る必要もなく(意味不明)迷わず女性スタッフに進路を取っていた。
 空き部屋の確認後、部屋をお願いし宿帳の住所欄に三重県四日市市と書き終えたところで、


「自転車で旅をされているんですか」


と声をかけられた。自転車での来店を見ていたらしく、遠方で驚いたのであろう。 少しおしゃべりを楽しんだ後、自転車置き場まで案内すると言われ一緒に玄関を出たのだが、自転車置き場まで直進でわずか10メートルほどの距離だ。口頭でも十分に伝えることが出来るはずだが、あえて付き添って歩いてくれたのは、きっと私に好意を持ったのであろう。


「自転車をちょっと見たかっただけ」


とは決して考えない。男って、自分本位な生きものなのです。一緒に歩く間に見せた笑顔がとてもキュートで、そして自転車に施錠をしている間も見届けてくれ、一緒にフロントまで戻りキーを渡してくれたのだ。


 部屋から浴場に向かう際にも素敵な微笑と、


「お疲れでしょうから、どうぞごゆっくり」


と声も掛けてくれとても感じの良い女性だ。


 大きな風呂を満喫し、夕食に出かけようとフロントに立ち寄り、この女性に美味しいラーメン屋さんを訪ねると、


「美味しいかどうかは好みもあるので」


と前置きしながら、駅周辺には専門店が二軒あり、一店舗のみで営業していている店、多店舗展開しているチェーン店、あとは食堂や居酒屋でラーメンのメニューがある店を数軒教えてもらうことが出来た。


 ホテルの玄関を出ると雨の気配がし、徒歩で向かうことにした。


「こちらの店を選んでね」


と、彼女の心の叫びが聞こえ一店舗で営業するラーメン屋に、ホテルから10分ほど歩き到着だ。のれんをくぐると丁度カウンターに空きがあり、待たずに入店することが出来た。


 私は初めて入るラーメン店では、必ずベーシックなものを注文することにしている。臭みのまったくないあっさりとした豚骨に、焦がしニンニクがたまらない。太目のストレート麺がまた良くスープに合っている。大き目のしっかりと味の付いたチャーシューが二枚、多目のねぎ、きくらげ、海苔が添えられている。


 今の多くのチェーン店のラーメンは700円~900円ぐらいが相場であろう。決して不味いとは思わないが、特別に美味しいと感じる店に出くわした経験がない。ここのラーメンは680円でしっかり満足のできるラーメンであった。


 店を出るとかなりの雨量でタクシーでホテルまで戻り、出迎えてくれたフロントの美しいお姉さまが、


「おかえりなさい。どうでしたか」


と訊ねてきて、個人店に行き、美味しくて大満足だと伝え礼を言うと、にっこりと微笑み、


「よかった」


とつぶやく声が聞こえたのだ。大資本のホテルチェーンでは、まず見ることができない素敵な接客が出来る女性だ。感謝、感謝。


 部屋でしばらくくつろぎ、再びお風呂に足を運んだのだが、女性の姿はもう見られず、おじさま二人がフロントにおり、急にこの地で起きた盗難を思い出し嫌になってきた。早くこの地から脱出したい。

Primo piatto 自然の猛威

  朝、汽笛の音で目が覚め窓の外を見ると、綺麗な海が広がりフェリーが入港しようとしている。何処から来たのであろうか、また、ここから何処へむかうのだろうか。船旅もいいかもしれないと感じる。


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 朝食はビュッフェではなく朝定食である。先ずはお味噌汁を啜るのだが、ものすごく甘い。なにか調味料を間違えたのかと思わせるほどの甘さなのだ。出しの違い、味噌の違いでは考えられない、今まで体験したことのない味噌汁の甘さにはとても驚いてしまったが、きっとこの甘さが、この地の味なのであろう。美味しい不味い、合う合わないではなく、この地の味を体感できたことは私にとってとても有意義なことだ。
 
 朝食を済ませ噴火のあった山を目指し自転車を走らせる。いきなり長い坂が続き昨夜の酒量を反省するが、綺麗な女性を前に酒がすすんでしまうことは致し方ないことで、自然の摂理に合ったこと、男って、ホント馬鹿。


 ロード・バイクとは思えないフラフラ状態で坂を上り切ると、一気に視界が開け右手に緑に覆われた山が連なり、左手には海が見える。平坦になった道を気持ちよく進むと一本の川に差し掛かった。
 川にはほとんど水がないものの川幅がとても広く、どことなく異様だ。橋を渡ると木々に覆われた山は姿を消し、遥か奥に森林限界を超える高さではないのに、まったく緑のない岩肌をむき出しにした山が姿を現した。火砕流で焼き払われた痕跡が映し出される。


 川伝いに進路を取り進入禁止とある場所まで一気に上り詰め、山を見上げただただ呆然とするだけだ。


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 ここで一枚写真を撮り終えたところであえなく電池切れで、昨夜充電し忘れたことが悔やまれる。


 山を下り、途中の資料館に入って充電をお願いし、生々しい火砕流の展示写真などをみていると、館長らしき人物が山頂に向け望遠鏡を用意してくれた。覗いてみると噴煙が確認でき、溶岩で出来上がった山が鮮明に映し出される。
 館長の話を聞くと、この辺り一帯も焼き払われてしまったそうで、近くに小学校がそのままの状態で保存されている。鉄筋コンクリートの外壁だけが原型を留め、校舎の中は凄まじい状況だ。


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 この小学校には隣接して国土交通省の資料館があり、多くの展示がされこの山の地形の変化を切り取っている。
 大自然の猛威をまざまざと見せ付けられ、人間などはただその中で生かされているに過ぎなく、小さな存在に思えてしまう。人から見れば大災害なのであろうが、自然から見れば何億年と続いている地形の変化の一部に過ぎないのであろう。


 この山の噴火で多くの報道関係者が尊い命を奪われた。ご冥福を祈るばかりだ。


 海の見えるところまで来ると、朝に思い描いていたことが無性に気になりだした。行き先なんて何処でもよく、フェリーに乗りたいだけなのかも知れない。港に着き、乗船券と自転車の乗り入れの料金を払い乗船だ。


 船内は多くの人で賑わい、観光バスも何台か入っている。韓国の女子高の修学旅行であろうか、ハングル文字の名札を付けた若い女の子でいっぱいでとてもタイミングの良い船に乗れたのだ。男子校の修学旅行であれば、楽しいはずの船旅もきっと、いや考えるのはよしておこう。


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 海面に軌跡を残し、船の周りにはカモメが飛び交い、遠くに先ほどまでいた山も見える。綺麗な女子高生もいて見事な景観を作り出している。


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