“Soul bar-IORI” 命日
1980年の今日(アメリカ時間の日付は8日)、当時私はまだ高校生だ。バンドの練習を終え帰宅すると母親が興奮気味に話している。
「あんた、ジョンが死んじゃったよ」
母親から結び付くジョンは隣の犬しか私は知らない。まさか外国の方に知り合いがいるようなハイカラなおばさんでもない。母親も私もジョンと仲がいい。リーゼントに髪型を替えた私に、隣のおばさんはきっと陰口を叩いたであろうが、ジョンはしっぽの振り方を決して変えることはなかった。見掛けで人を判断することはない、いいやつだったのに、、、朝は元気にしっぽを振っていたのに、、、
夕食を済ませ離れの自室に向かう為庭に出ると、私に気が付いたジョンがしっぽを引きちぎれんばかりの勢いで振っている。何?嘘?居間の戸を開け、
「何言ってだ~、元気にしっぽ振ってるじゃねーかー嘘つき」
「隣のジョンじゃないってー、あんたが好きだったジョン」
好きだったジョン、確かに聞く機会はめっきりと減ったが、私に音楽の素晴らしさを教えてくれた最初の人だ。過去形ではなく、現在も続いている。
Mother - John Lennon/Plastic Ono Band
カラン、カランと呼び鈴がなり客の来店を知らせると、ピアニストがやって来た。
「いらっしゃいませ」
「珍しいですね、ジョン・レノンかけてるなんて」
「今日は一日彼をかけますよ」
「もしかして今日はジョンが亡くなった日?じゃ、バーボン止めてスコッチにしようかな」
「ジョンはブランデーベースのカクテル、アレキサンダーを好んで飲んでいたらしいですよ。私も今日は一杯やりますのでご一緒しませんか?アレキサンダーで」
シェイカーに氷を落とし、ブランデー60ml、クレーム・ド・カカオ30ml、生クリーム30mlを入れ、シェークしカクテルグラスに注いだ。
「ジョンレノンに乾杯!」「乾杯」
「ジョンもアフリカ系アメリカ人音楽の影響を受けていますよね」
「おっしゃる通りだと思いますよ。公言もしてますし」
「マスターはジョンとポールどちらが好きなんですか?」
「どちらがってことはないんですよ。ジョンにはジョンの、ポールにはポールの良さがあると思います」
「そっかぁ~、ジョンも素晴らしいんだけど、私はポールが好きかな」
「好みはあって当然だと思いますよ。それでよろしいのではないでしょうかね」
「ジョンはロックンロール、ポールはバラードって感じかな、私的に」
「ポールもロックンロールはかなり唄ってますけど、イメージ的にはそうかもしれませんね。あと思うんですけど、名曲って言われるのはポールはビートルズ時代に多くて、ジョンはソロになってからが多い気がしますね」
「あ、ほんとだ、そうかも知れないですね。『イマジン』、『スタンド・バイ・ミー』とか」
「『スタンド・バイ・ミー』はベン・E・キングのカバー曲ですよ」
ジョン・レノンもまた世界平和と愛を説いたアーチストだ。