“Soul bar-IORI” 映画3
ドリンクのオーダーが入るまで明日香と映画の話を続け、テレビ局の援助がなければもう映画は製作できず、テレビ局の恩恵も受けていることを話すと、女性はバーボンのコークハイを頼み、飲みながら日本とアメリカの俳優を取り巻くビジネスについて話し出した。
彼女は日本の芸能界は「事務所」の力が圧倒的にタレントより強く、アメリカは逆であると言う。
日本でタレントは、事務所に所属し育てられ仕事を割り当てられる。一定の賃金が支給され、事務所の管理下であり、事務所の力が大きい。タレントを育てデビューさせるまでには膨大な資金が必要で、後は投資したぶんの回収にひたすら走る。クオリティなど求めている時間もなく、あらゆる方法を使い仕事を取り、需要があれば送り出す。歌もダメ、演技もダメなら脱がせればいい。稼ぐ金はまた新たなタレントを育成する大切な資金だ。
一方のアメリカは、俳優、タレントとして活動できるまでは自身の力で学び、その後タレント・エージェンシーと契約を交わし仕事を割り当てられる。当然基本給などなく、稼いだギャラからエージェントのマージンを引かれタレントに支給される。マネージメントも含め個人契約をする者にそこから給与も支払われ、タレントは事務所の配下ではなく、個人事業主である。
この違いがタレント、俳優としての力量に大きな影響を与えているのだと彼女は話、自己責任の大切さを説いた。そして、こう付け加えた。
「日本の芸能界は反社会勢力との深い繋がりがあって、アメリカのようなシステムは難しいでしょうね」
カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、昨夜に続き森様の来店だ。そして、何てことであろうか、明日香と女性の間の空いた席に腰を降ろし、ジャックのロックを頼んだ。そしてBGMで流していた「ゴースト」の主題歌を聞き、懐かしい映画だと話す。
私は心情的に粗悪な合成酒で造られたウィスキーを提供したいが、あいにく店には用意がなく、仕方なくオーダーされたジャックをグラスに注いだ。幾分量は少なめだったかもしれない、、、
BGMにモータウンのセッションギターリストとして活躍し、その後ソロシンガーとして成功を収めた“Ray Parker jr.”が歌った映画の主題歌をかけた。
映画音楽からのBGMが続き、映画の話題を感じたのであろう彼は、こう話した。
「今のアメリカ映画は、かつて日本資本が入ったように中国やインド、アラブの資本参入があって、なかなか思うような作品が出来ないんだろうな。アメリカの大切な文化に金で物を言わせ土足で踏み潰してしまう、、、まぁ、もっとも最初にやらかしたのは日本だけどね」
男性の言う通り、日本の資本があったからこそ私もアメリカ映画のロケを見ることができたのかもしれない。ファンの私にとっては嬉しい限りの事だが、文化、思想の異なる異国の血が入れば、思うような作品は作れない。
文化が異なる地に受け入れられるには、より理解しやすい二次論の作品が多く作られるであろう。善か悪か、もっともわかりやすい例えで言うなら単純明解なテレビドラマ「水戸黄門」のような作品ばかりになってしまうのではないだろうか。
続く