紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 価値1

 12月に入り繁華街は賑わいを見せているようで、宴会の後に少人数で飲まれる新規の方が、ポツリ、ポツリと増えている。有難いことだ。ただ、騒がしい客は御免だ。客も店を選ぶ、そして私も客を選ぶ。ただ、それだけ。


 BGMは敢えて静かな曲を選びたい。12月の慌しさに嫌気の差す方もいるであろう。ゆったりと流れる時間の中で音楽を楽しんでもらいたい。



Hank Jones - Round Midnight


 カラン、カラン ドアベルが鳴り客の来店を知らせると、ジン好きな彼女だ。


「いらっしゃいませ」


「今日は何かカクテル飲みたいなぁ~。カクテルわからないからマスターにお任せ」


「かしこまりました。ではお洋服の色に合わせて」


 氷を落としたシェーカーにジンを30ml、ブルーキュラソーを15ml、レモンジュースを15ml入れシェークしてカクテルグラスに注いだ。


「わ~綺麗。何て言う名前のカクテルなんですか?」


「名前付けるとしたらブルー・レディでしょうかね。憂鬱ではなく、綺麗に澄み切った海の色」


「名前ないんですか?このカクテル」


「今、私が考えたカクテルですから。ブルーキュラソー入れましたけど、コアントローを入れればホワイト・レディです」


「え~マスターのオリジナルなんですか、それも今考えた。おいしい」


「オリジナルってわけじゃないですね、アレンジですね」


「何か嬉しい。私の定番にしよっと、大好きなジンがベースだし。私だけのカクテル。他の客に出したらだめですよ~だ!。ねえ、マスター、価値のない人とか物ってこの世に居たりあったりするのかしら。会社で同僚が課長からこてんぱんにやられて、『君に給料払う価値がない』って、ひどくない?課長が給料出してるわけでもないのに」


「う~ん、難題ですね。自分にとって価値がなくても人が同じとは限らないし」


 辞書で価値を引くと、「ある物事の、役に立つ、重要であると認められる特質。また、その程度。ねうち」とある。経済学の観点からすれば、財貨のそのもののねうちであったり対価として値するかどうか。哲学では、人が善し悪しを判断する対象となるものであろう。英語ではそれぞれ“value”と“worth”で表す。


 マックス・バリューと名の付くスーパーもあるが、私の近所にはもっと安く売る店があり、最大限に値打ちなのかは疑問だ。難しい話をしていたら客で助かった、、、新規のカップルだ。


「いらっしゃいませ、お二人様ですね。お好きなお席へどうぞ」


「お~ビールくれ」「私はチュウハイ」


「申し訳ございません。焼酎をご用意致しておりませんので、ウォッカでお作りしましょうか?」


「え~何で焼酎がないのよ!もう、なんでもいいわよ、酔えればね~」


 すでに酔っ払いだ。タンブラーに氷を落とし、ウォッカ、レモンジュースを入れ、ソーダで満たして軽くステアーした。


「私、さっきの店であんまり食べてないのよね、お腹空いちゃった。何か食べるわ、メニュー見せて」


 メニューを見ながら、女性は


「ねえ、お肉焼いてよ、何かあるでしょ?ビーフがいいわ」


「申し訳ございません。ステーキ用のお肉がございませんので、チキンをお焼き致しましょうか?香草焼きでも」


「まぁ、チキンなんて安っぽい、失礼な。あ~、もうなんでもいいわよ、それしかないなら」


「焼き上がりまでお時間を頂きますので、しばらくお待ちください」


「何でもいいから、早くして」


 チキンのモモ肉に軽く塩を刷り込ませ、オレガノ、タイム、ローズ・マリー、バジルを振り、油は引かず、皮面から弱火でじっくりと焼き上げる。


「チキンなんてありふれた安い肉、ステーキにしたって価値ないわよね」


「ビーフがないんだから仕方ないだろ。また今度食いに行こうぜ、黒毛の美味い肉をさ」


 チキンから出た脂で皮をじっくりと揚げ、パリパリに仕上げる。ジューシーなお肉と相まって絶妙な食感を与えてくれる。もう少しで裏返し両面を焼き上げて完成だ。


「しかし、遅い店だな。チキンぐらいさっさと焼けないのか?おい、もう帰るかよ」


「もう遅いからチキンいらないわよ、キャンセル!」


「はい、結構ですよ。2200円でございます」


 カラン、カラン、ガシャン!


「あ~あ、お客さん怒っちゃいましたね」
                                      続く




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