大海原 Primo piatto 素敵なお酒
名古屋駅に着き、ビールとつまみを買い込み東海道本線に乗り込みだ。何時に着くのか予想もつかない。何処まで行けるのかもわからず、乗車券は名古屋駅分までしか持っておらず、宿も取っていない。すべてが適当である。
今、検札があれば、私は捕まってしまうのだろうか。
「酔っ払いのおっさん、無賃乗車で逮捕」
なんて新聞見たくない。
今回、向かったことを先方に伝えておらず、気が変わることなく目的地に着けば相手の驚く顔が見られるし、途中気が変われば、それまでだ。
ただ、どことなく気になってしかたがない。驚く顔も見たいが、向かっていることを伝えたい気もしてあやふやな気持ちだ。電話を取り出してはまたザックに戻しを繰り返し、何となくメールをしてみた。
「今は旅の途中ですよ。今日は何処まで行けるのか自分でもわからないけど」
と相手には、ほとんど真意がわからない文字を打ち込み、ビールとつまみを窓枠に置いた写メを送った。
すると、いやに早いと思うメールの着信音が電話から聞こえる。相手からの返信ではなく別件と思い確認をすると、リターンメールである。
わけのわからないまま、何度も送信を繰り返すが結果は同じで、
「もしかして着信拒否」
と頭に過ぎった。いやいや、何かの手違いかもしれない。事実としてメールは届かないが、先方が操作を間違えた可能性も、わずかであるが残されている。着信拒否であれば、この旅はどうなるのだろうと不安だ。
着信拒否をされたのであれば、先方が何かしらの不安や、嫌悪を感じたのであろうが、私には思い当たる節がない。
また、ネットはバーチャルであり、現実世界から離れた位置に置く方もみえるであろう。居住地も居酒屋経営も仮想空間での話なのかもしれない。
人それぞれの考え方や活用方法があってしかりで、責めることも出来ないであろう。ネットの世界なんてこんなものなのかも。
お酒を飲みながら、あまり容量を持たない頭で考えていると、結局は、旅先きを変更するか、しないかのどちらかでしかないのだ。やはりあまり大したことは考えられないようで、真相がわからず、いくら仮説を立てて考えていても結論は出てこない。
ただ、この件を理由として行き先を変更してしまうのは、「ネットの世界はこんなもの」を自ら実践しているようなもので、取るべき行動ではないと思う。目的地を変更せず向かい、そこでの現実を受け入れるしかないのだ。仮想空間の話であることも想定内にし、何かの間違いであって欲しいと願うだけだ。
メールではなく、電話をかけてもやはり通じない。ほぼ行くことは間違いなく出発したのだが、曖昧なところもあった気持ちは、この時点で確実に固まった。
どんな状況でもそれをも楽しめば良い。それで良いのだ。
「なんとでもなるさ」
こんな気持ちにさせてくれるお酒ってなんて素敵なんだろう。