紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

大海原 Dolce

 
 相方と別れ、車を見送る通りには桜並木が続いている。もう一月も経てば素晴らしい景観を見せてくれるであろう。満開の桜をイメージし交差点を渡り木を間近にすると、驚くほど幹が太く年輪を感じさせる。何十年とこの地に立ち続け、街の、人々の移り変わりを見てきたのであろう。


「また来月来てみよう、絶対」


 居酒屋にお邪魔するのもそのときの楽しみである。


 日立駅から特急に乗り、東京まで1時間半ほどの列車の旅だ。車窓からは大海原が目に映る。こんな景色を眺めながらのんびりと暮らしたい。


 東京駅で降り、新幹線口に向かうも、


「富士山が見える地でもう一泊しよう」


と思い立ち、在来線に引き返し熱海行きの列車に乗り込んだ。幸いラッシュに重なることなく、横浜まで抜けられそうだ。この大都会に思うことは何もなく、ただただ、早く通り過ぎて欲しいだけだ。


 列車に揺られながら、富士山のロケーションを思い描いていた。富士の見る地は三島から沼津を除き清水辺りであろう。西伊豆に足を伸ばせば海越えに富士が一望出来る。沼津は富士方面に山がそびえ隠れてしまうはずだ。普段、何気なく見ている地図が、役に立つ。


 三島駅で降車をし、清水の手前、興津(おきつ)に海岸に面した健康ランドがあり、露天風呂から海が望め、富士の景観もいいと情報を得ることが出来た。


 興津駅から10分ほど暗がりの中、自転車を走らせ駿河健康ランドに到着だ。ホテルも併設しているが、雑魚寝で十分。チェックインを済ませさっそく景観を楽しもうと露天に向かったが、辺りは暗闇で何も見えない。


 翌朝、再び露天に行くと、雨は降っていないものの空は雲に覆われ、富士は姿を現さない。富士の景観は諦め、海を眺めるだけだ。


 いつ降り出してもおかしくない天候に、サイクリングも諦め、興津駅に向かい帰路に着いた。


 素晴らしい景観に、素晴らしい人との出会いをさせてくれたこの旅に、感謝、感謝である。 

                                                                 大海原 完

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