紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Dolce 自転車活用の効果 

 
 雨もすっかり上がり、ネットカフェを朝早くに出発した。この先は都市部が続き、快適なサイクリングとはいかないであろう。


 国道2号線は早朝にも関わらず多くの車で溢れ、排気ガスを撒き散らし走っている。複数の人が乗る車はまず見かけない。一人一台だ。


 自家用車が夢の時代から、一家に一台、そして一人に一台の時代がやってきた。車の普及が日本の経済を支えたことは紛れもない事実である。本当に豊かかどうかは私には多くの疑問が残るが、経済の発展があって今の生活が成り立っている。


 私は自家用車を全否定するつもりは毛頭ない。一度便利なものを覚えてしまえば、時代に逆行することなど無理な話だ。ただ、大切なことはバランスなのではないかと思う。タバコを切らして近くのコンビニに車を走らせるなど、自転車があればこと足りてしまい、わざわざ化石燃料を焚いてまで行くことではないであろう。車の利用が美化に繋がるのであれば話は別だが、破壊を伴う。


 徒歩、自転車、公共の交通機関で足りることは積極的に利用し、致し方ない場合に自家用車の利用することが望ましいのだと思う。


 走行中、店舗や路地から出てくる車で何度も冷やりとさせられる。停止線を守り、安全確認さえしてくれれば多くの事故は防げると思う。また、歩行者、自転車を確認したとしても、相手が停まるであろうと飛び出す車も多い。凶器となりうる車が停まるべき存在であると思うが、分厚い鉄板で守られていることが、自分がより上の立場と勘違いさせてしまうのだろうか。


 弱者優先、保護が最も大切なことだと思う。


 都市部の自転車走行は、私に多くのことを考えさせてくれた。


 走行を続けると、大きな橋が現れる。サイクリングを楽しんだ海道と同じように、島を経由して四国に渡る橋だが、車のみで歩行者、自転車共に通行は出来ない。


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 環境が整えさえすれば、自転車を楽しみたい人は結構多いのではないかと思う。実際に海道では多くのレンタル自転車が稼動し、訪れた観光客がサイクリングを楽しんでいた。拠点となる地にはそれぞれに列車であったり、自家用車で訪れているのだと思う。


 より快適にサイクリングが楽しめる環境を整えることにより、排気ガスが減り、地球温暖化の防止、環境保全、交通渋滞、事故の減少に繋がる。ひいては公共交通機関の利益増、もっと大きく見れば、日頃の運動不足の解消に役立ち、生活習慣病の減少で、医療費負担まで減らしてくれることになるかもしれない。


 より多くの人に自転車を活用してもらいたいし、そのために行政が行うべきことをしっかりと遂行してくれることを願うばかりだ。


 車での移動が快適に出来るよう道は整備されてきたが、場所により、今後は車での移動が苦になる思索も併せて考えて欲しい。自転車は何も空気清浄機が付いているわけではなく、車が減らないと意味がないことだ。


 休憩を終えさらに自転車を走らせ、日本第二の都市に辿り着いた。すっかりと日は落ち、宿を探さないといけないが、この不快な地を朝起きて走るのも嫌である。2号線から1号線へと標識が変わる中一気に走り抜け、昨夜と同じネットカフェが前方に確認でき入店をした。

Dolce お宝


 街を出て東に進路を向けると大きな山がそびえ立っている。ヒルクライムは避けるべきであろう。輪行するか、かなりの距離を強いられるが海岸線に進路を向けるかで、海岸線を走ることにした。決して平坦ではないが、綺麗な景観が目の前に広がる。


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 やがて海岸から外れ市街地に入ると、お城の看板が目に入る。お城にテーマを決めて帰路の旅をしているわけではないが、ここは見ておくべきであろう。


 北進すると、見事な建造物が目を引く。あいにくの曇り空でいつ降りだしてもおかしくない天候であるが、平日にも関わらず、多くの観光客を集めている。手前の商業施設が並ぶ公園に自転車を置き徒歩で移動だ。


 桜はほぼ終りで少々残念な気もするが、緑もまた良い雰囲気を作り出している。若干改修の途中でテントが張られた部分もあるが、あえてその部分も写真に収めてみた。やはりなかった方がよかったみたいだ。


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 城の中に入り思ったのだが、建築に詳しい知識もなく、天守閣とか上ったところでそれほどの感動がない。外から遠めに眺めてる姿が美しいと思う。


 自転車を始める前は登山をしており、富士に登った経験がある。荒地が続く登山道には、人、人、人、、、。下界を見下ろす爽快感はあるが、美しい景観にめぐり合えることはなかった。遠めに眺め、その雄大で美しい山容を楽しむ山であろう。と、なぜか富士登山を思い起こしていた。


 城内を見学しているうちに雨が降り始めた。急いで宿を確保しなければならず、お城から出ようとしたとき、素晴らしい光景が目に飛び込んできたのだ。女性の城内係り員の素敵な笑顔に、その彼女の胸の先が、心なしか突起している感じだ。


「もしかして、してないのかしら?」


 国宝&世界遺産は、素晴らしい景観と感動を与えてくれる。


 合羽を着込み、駅前に走るとアーケードがあり雨がしのげた。駐輪場もあり商店街を散策すると、多くの立ち飲み屋が営業をしている。


 雨で自転車での移動は出来ないし、何も観光地を巡るだけが旅ではない。いろいろな理由付けをしのれんをくぐった。明るい内から飲むお酒って、美味しいのです。


 軽く一杯のつもりが、気が付いたときには宿を探す気力も失せている。フラフラと自転車まで戻るも、アーケードの外は雨がまだ激しく降っている。と、そのとき目の前にネットカフェがあるのだ。自転車を停めるときには気が付かなかったが、まだまだついている私だ。きっとどこでも寝れるさ、この酔っ払い。

Dolce AKR47

 
 翌朝、何の感動もなくホテルを出て、城と、隣接する日本三名園とうたわれる、かつての大名庭園を目指し自転車を走らせた。


 加賀100万石と言われる金沢の兼六園、徳川の御三家である水戸の偕楽園、池田さん(当地藩主)もお金持ちだったのであろう。


 お城は太閤秀吉が築城した大阪城の天主を模索したことや、黒塗りであり白鷺城と呼ばれる姫路の城と対比されることが多いが、お城としての価値は私にはよくわからない。


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 お城と藩主の自己満足のお庭を後にして自転車を走らせると、焼き物で有名な地に辿り着いた。
 
 JRの駅ビルが、伝統産業会館として焼き物の展示販売を行っている。地域産業に根ざした駅ビルは、誇れるものであろう。何処に行っても同じような商業施設が入る駅ビルでは、あまり価値がないのだ。


 室町から安土桃山時代にかけて栄えた茶道と共に、多くの名品を世に送った窯である。江戸期に入り茶道が衰退し輝きを失せた時期もあると聞いたが、釉薬を使わない焼き物はより自然な仕上がりで、美のそして物の原点であるようにも感じる。時代の流行などと関係なく、多くの人に愛され続けているのであろう。近代の世の中に欠けている何かを、この焼き物は持っているのかもしれない。


 焼き物の街を離れ海岸に向かって自転車を走らせると、美しい景観が広がるも目の前には山がそびえ立っている。
 排気ガスが充満する長いトンネルを避け、海岸に向かったのだが峠越えの様子だ。なかなか楽には自転車旅をさせてはくれない。


 かなりの勾配であるが綺麗な空気と緑の中の走行はそれほど苦ではない。最も忌々しいのは排気ガスだ。雨、風は自然であり、致し方ないと諦める他はないが、人為的なことには腹も立つ。


 人は便利さと引き換えに、多くの大切なものを失っていくのであろう。


 正直辛かった峠越えが終わると一気に下るのだが、70km近いであろう速度は気を緩めることが出来ない。落車すれば命にも関わる。初めて走る道は路面の状況が把握できておらず、積載オーバーで走る大型車が作り上げた路面の凹凸があれば最悪だ。


 ジェット・コースターにも勝る恐怖から、麓に着くと一気に安堵する。コンビニを探してコーヒータイムと行きたいところであるが、求めているときに出くわさないのがコンビニで、マクドナルドがありコーヒーを頂き休憩だ。ついていないことに男性スタッフの対応であった。マックなんてもう行かない。


 マクドナルドを出て走行すると、すぐに海を見渡せるドライブインがある。とことんついてない私。


 先ほどの峠が県境であり、自転車での都市間移動を始めて3つ目の県に入った。どれぐらいの距離を走っているのだろうか。盗まれたサイクル・コンピューターが懐かしい。もしかしたら、今の下りで最高速度を更新していたかもしれないが、それもわかりはしないことだ。


 せめてマクドナルドで、素敵なお姉様の笑顔が見えたならなど、考えながら自転車を走らせると、君主の敵討ちをした家臣47名が英雄として奉り立てられる地に辿り着いた。


 テレビドラマなどでは英雄として映し出され、敵討ちされた側に非があるように認識しているが、果たしてどうなのであろうか。こんなことを深く掘り下げてみるのも歴史の面白いところである。


 どちら側から見るかで描写も変わり、一方だけから見ていては本当のところはわからない。どんなことに於いても両側から見て判断することが大切であり、その中で出した自分の認識が正しいのだと思う。


 この地を訪れ、帰ってからの楽しみがひとつ増えたのだ。


 宿を探し自転車で街を走ると、城を模した外観のホテルが目に飛び込み、予約以外は朝食も準備できないと言うが、値段も手ごろで、自転車もそのまま部屋に入れて良いと言われ宿を決めた。


 夕食にと個人店の居酒屋に入るも、あまり良い印象を受けることはなかった。長い旅の中ではこんなこともあるのだ。残念。