紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Second piatto アフター・サイクリング


 市街地を目指し自転車を走らせ、駅前すぐのビジネスホテルを当たるが空き部屋がない。通りをざっと見渡し、一番遠いホテルから攻めることにして、第一ホテルに行き着いた。


 見栄えのするホテルでは決してないのだが、私にはここに決めたいと願う要因があったのだ。ドア越しに中を覗くと、なんと4人組みの女性が今、正にチェックインをしようとしている。ものの5分も違えば、この光景を見ることはなかったであろう。つくづく私の日頃の行いの良さを感じた一瞬である。


 サンライズ糸山で、もし仮に、女性が声を掛けてくれていれば、1分、1秒でも長く引き伸ばす工作をしたであろう私は、この場面には出会うことがなかったのである。わずらわしいと思っていたことにも感謝、感謝である。


 ご夫婦で営むホテルで、ご主人が女性たちのチェックインをし、奥さんが私の対応をしてくれ、空き部屋を確認し部屋の確保が出来た。


「では夕食の出来る店を案内しますので、ご一緒に」


とご主人の説明が始まると、女性グループの1人が私を中央に迎え入れてくれ、まるで5人組のグループのようであった。


 何軒かの候補の中から、女性たちのリーダー的存在なのであろか、一人の女性が、


「じゃ、焼き鳥にしましょう。焼き鳥でいいですか」


と私の顔を覗きこんでいるのだ。


 いいに決まってるじゃないですか、、、焼き鳥は大好きであるが、例え嫌いであってもこの幸せな時間だけでも好きになる自信が私にはある。とうとう来るか、牡蠣エキスを十分に補給し、その栄養素を使う機会が。


 OKの返事をすると彼女は、


「じゃ、先に行って5人分の席、取っといてくださいね」


って、、、なんだ、ただの席取り要員だったのね、私。4人分と言われなかったことだけでも感謝しないと。


 かなりの人気店らしく、県外からもここの焼き鳥を目当てに、多くの人が訪れるのだとご主人が言う。
 店内はやはり多くの客で賑わい満席で待ちもでている。営業時間も残りわずかでその件を伝えに宿に戻ると、ちょうど階段から女性陣の声が聞こえ降りてくるところである。


 店の様子を伝えると、


「じゃ、他探しましょうよ」


と5人で夜の市街地散策で、3名が和歌山、お1人が大阪境の在住で、中学、高校時代の友人の混成のグループだと話し、お遍路の途中だそうだ。


 お遍路は、今更何の説明も必要としない、たぶん、いやきっと、いやいや絶対に日本初のスタンプ・ラリーであろう。
 江戸時代の初期には、多くの文献に残されており間違いなく行われ、室町時代に僧侶の修行として行われていた参拝が、庶民の間に広まっていたかがあいまいなところである。日本以外にスタンプ・ラリーがあるのか知る由もないが、もしかしたら、世界初のスタンプ・ラリーなのかもしれない。


 参考までに、源さんが政権を握った鎌倉の次が、足利さんの室町で、戦国の混乱を経て、豊臣さんの安土桃山、徳川さんの江戸へと移って行きます。
 学校で習う歴史って面白くもなんともなくて忘れてしまうんですよね。
 あれ?室町っていつ?鎌倉の前?とか、、、あ、学校で習った、いい国(1192年)つくろう鎌倉幕府って、認識違いで、今は1185年。いい国つくれなくって、い(や)いや、ごめんなさい。


 歴史の話をしだすと、100ページあっても足りないので、この辺で止めないと。


 かなりの距離を歩き店を当たったのだが空きがなく、二手に分かれて探すことにした。
 リーダー的な立場の人が、私に既婚か独身かを尋ね、女性を別ける編成を決めていた。
 私は独身女性2人と組み、5名の空きがあるか店に尋ね、2軒目でヒットし、電話で呼び寄せ合流することとなった。


 飲み会が始まり、驚いたことに同年で、話題に共通点も多く楽しい酒盛りとなったのだ。女性4人に囲まれて楽しくない男はきっといないのだと思う。


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 店を出て宿に戻る途中に、お酒を買って帰ると私が言い、ここでお別れをしようとすると、


「お酒は買ってあるから、よかったらそれ飲んで。お風呂の順番待ちで部屋に遊びに行くから」


 シャワーを軽く済ませしばらくすると、缶ビールとつまみを抱え3人が部屋にやってきたのだ。1人はお風呂。遠慮なくビールを頂き、二次会の始まりだ。


 1人が交代で部屋を後にし、先にお風呂に入った方が来るのかと思ったが、先に寝てしまったようで、3人が入れ替わりお風呂と部屋を行き来していたのだ。3対1がしばらく続き、1人が限界だと部屋に戻り、2対1。グループに振り分けられた独身3名の飲み会が、深夜まで続くのであった。


 旅には多くの出会いがある。訪れた街の地元の方、旅人同士もそうであろう。ほんの偶然がもたらした出会いに不思議な縁を感じる。
 隣に住む方ともこんなに話をしたことはないのだ。


Second piatto マジック・アワー

 
 ブルーラインは海岸に出くわし、この海道の最後の橋が姿を現した。
 橋へと繋がる螺旋道は、山の緑と海の青を交互に映し出す。もうまもなく日が沈むであろう。

 橋に上がると空は薄っすらと朱く染まり、海面もまた朱く光を放つ。朱色は深まりを増し大小の島々が織り成す多島美の世界に色を添える。なんて見事な景観であろうか。沈み行く夕日と海面が、朱色に輝く光の帯でつながれている。




 風景は一期一会である。


 この日、この時間、この場所に多くの偶然が重なり立つことができた。その全てが作り出した景観だ。 例え同じ場所に立つ機会があったとしても、季節、時刻、天候で映し出される景観は別物だ。


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 やがて朱く染まった景色が影絵となり淡彩画に姿を変える。このほんのわずかな時間がとても好きで一番美しいであろう。


 この景観のタイミングを作り出してくれた、今日会ったすべての人、出来事に感謝である。


 朝日と夕日、どちらが好きかは人それぞれで、昇ると沈むで感覚的なことも左右するであろうが、大気中のちりや埃の量で光の屈折が変わり、夕日のほうがより朱く染まる。


 橋を渡り、サイクリストご用達の総合施設サンライズ糸山に立ち寄る。宿泊に空きがあるか当たるが、空きはなく市街地に向かうことを決め、外でタバコを吸っていると、男性二人組みに声をかけられた。


 休憩の兼ね合いなのだろうか、数回私に追い越され悔しい思いをしたと笑いながら話すが、別に私は人と争っているわけではなく、自分のペースで楽しんでいるだけ。
 また、同じ世代かと思ったが私が年配で驚いたと言う。そんなことは、ほっといて欲しい。
 そうだ、次回お姉様と出会う機会があれば、ヘルメットをかぶろう。


 しかし、私の目には男性が目に入らない 特性 でも持っているのだろうか。
 不思議だ。眼科に行こうかしら、、、




Second piatto やがてひとつ


 次なる橋を渡ると、多くの方が知る地名で塩が有名な島である。生産なのか製造なのか、どちらが適切な言葉であるのかよくわからないが、自然海塩ではないので製造がより正しいのかもしれない。
 悪しき塩の専売が解かれ、「塩が選べる時代」を作り上げた功績は大きい。


 ブルーラインは穏やかな丘陵地帯を越え、海岸線へと進み綺麗な景観が広がり、ついつい立ち寄ってしまう道の駅が現れる。多くのサイクリストが休息を兼ね、肩を寄せ合い海を眺め語り合う恋人たち、砂浜ではしゃぐグループなど思い思いに楽しんでいる。


 塩ソフトクリームが大人気のようで、多くの人が持ち歩いている。私は売店で塩まんじゅうとお茶を買い、ベンチに腰掛け楽しむことにした。


 綺麗な砂浜が広がり、夏ともなれば海水浴に訪れる素敵なお姉様達で賑わい、より美しい景観を見せてくれるのであろう。


 ブルーラインは更なる橋を渡り、パンクをして困り果てていた女性が目指した島だ。無地に辿り着けるのであろうか。


 しばらく海岸沿いを走ると、決して大きくはないが一際目立つ島が現れる。ここも村上水軍ゆかりの島で、今は無人島なのだが見事な桜が目を引く。


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 この島との間には激しい潮流が見られ、とても見応えのある景観だ。流れの異なる潮がぶつかり激しく争い渦を巻き、やがてひとつにまとまって行く。


 人には争いを回避する知恵があるはずだ。考えの異なる国同士も、いつかこのようにひとつにまとまってくれればよいと、渦潮を見て感じていた。


 ブルーラインは海沿いを離れ上り下りを繰り返し、長い距離を走った後にはかなりきつい坂も出てくるが、のんびりと楽しめば良いのだ。仮に自転車を降りて押して歩いたところで誰に怒られる事もない。
 決して競技ではなく タイムを争っているわけでもない。自分のペースで楽しめばそれで良い。


 登山も綺麗な景観を楽しみながら登れば楽しく、疲労困ぱいであれば楽しくない。