紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 車の街


  営業時間前、自転車で繁華街を通り抜け、大通りに面するスーパーに少量の買出しに出た。繁華街は車で埋め尽くされ、日常的に違法駐車が行われている。狭い通りを行き来する車も、通行を妨げられ苦労しているようだ。


 エコ、規律、道徳を多くの人が口にし訴えているが、この車の状況を見れば、上辺だけの人が大多数であろう。それが日本人と言うものだ。表面的には綺麗に着飾り、立派なことを口にしても中身を伴うことはない。日本の指導者を映し出した姿なのかもしれない。


 車産業が日本経済を支えてきたことは紛れもない事実で、車なくして今の日本の発展はなかったであろう。ただ、すべてを車に頼るのではなく、適度に留めて置くことも、これもまた大切なことである。これ以上の発展は、多くの破壊を伴ってしまう。


 店に戻り、開店だ。BGMは「車の街」デトロイト発祥のレーベルをかけてみよう。“Motown”モータウン、モータータウンを略して名付けられた。



What's Going On-Marvin Gaye


 モータウンは、都会的に洗練されたよりポップな音作りを目指し、ポピュラーソングを愛聴するヨーロッパ系アメリカ人にも多く受け入れられていく。徹底した管理体制の中で、アーチストの自由表現より、レーベルとしての戦略を重んじていた。しかし、この男の出現によりそれは崩されていく。商業的に作り上げた音楽よりも、自身の心で歌い上げたものが、やはり、後世に残されていく音楽であるのだと感じる。“Mavin Gaye”の戦争、貧困、差別に対する思いを聞いてほしい。


 ドアベルが鳴り、来客を知らせた。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?どうぞ、お好きなお席へ」


 40代後半らしき男と水商売風の女は、男の先導でカウンターの隅に席を取った。


「ビールをふたつ」


「かしこまりました」


 客の関係を詮索することは無用であるが、すべての席が空いている状態で隅に座るには、何かしらの理由があるのであろう。こちらと関わりを持ちたくない場合も多い。そっとしておこう。


 人は野生動物としての本能を完全に失ったわけではない。あらゆる方面からの攻撃を避けるため、壁に守られた隅を選ぶこともあるのであろう。また、パーソナル・スペースに、歓迎しない者が入ることを嫌う。特に日本人は閉鎖的かつ個人主義で、隅を好む人が多いのかもしれない。謙虚さとは別物だ。


 必要以上に関わるつもりなどないが、交わす話は否応なしに耳に入る。


 男は自慢そうに、子供の頃からの夢を実現したと話している。幼い頃に抱いた夢を決して忘れることなく追い求め、実現させたことは素晴らしいことだ。大いに自慢することであろう。高級スーツを身に纏い、腕にはブレスレットをし、ベルトにお腹が乗っかる風貌に嫌な気分にもさせられたが、心の奥底にはしっかりとした己を持っているのであろう。人は見かけで判断してはいけないことで、反省しなければならない。


「僕が幼い頃にね、スーパーカーが流行ってね、もう夢中だったなぁ~。ランボルギーニ、フェラーリ、憧れたなぁ。親父が死んで、会社を引き継いで、もうこれは買うしかないってね。とうとうフェラーリF12ベルリネッタを契約してきたよ」


 やはり人の持つ心は外見、行動に表れるものだ。反省したことを悔む他はない。素晴らしい音楽に集中しよう。

“Soul bar-IORI” 魔法

 
 店のオープンである。表の看板に電気を点しに外へ出ると、雨が降り、肌寒さを感じる。今日も暇な一日になりそうだ。もし、私に魔法が使えたなら、雨を止ませ、カウンターは素敵なお姉様で溢れ、、、って、止めておこう、悲しくなるだけだ。


 BGMを考えていても、魔法が頭から離れない。そうだ!このおじさんがいい。ピッキングはあたかも羽毛でギターを奏でるがごとく優しく、そして時には激しく、エフェクターを使わずシールド一本で、まるで魔法をかけたように多くの音色を出すギターリストだ。



David T. Walker - Lovin' You (Live) [Official Video]


 このギターリストはR&B界の重鎮で、参加アルバムが軽く1000枚を超え、多くのミュージシャンからも愛されていてる。ジャクソン5時代も含め、マイケル・ジャクソン、スティービー・ワンダー、マーヴィン・ゲイなど、、、私の大好きなクルセイダーズも含め素晴らしいミュージシャンのレコードに名前がクレジットされているのだ。また、日本のミュージシャンからの依頼も多く、井上陽水、上田正樹などのレコーディングにも参加をしている。あまり嬉しくはなかったが、ドリカムとも演てたな、確か。


 後、このビデオでドラムスを叩いてるレオン・ンドゥグ・チャンクラー。カタカナ表記が難しいのだけれど“Leon N'dugu Chancler”と綴ります。このドラマーもマイケル・ジャクソン、ドナ・サマーなどのソウルからマイスル・デイビス、クルセイダーズ他、多くのジャズミュージシャンとも競演しているドラマーで、なんと、彼は私のこと「友達」って言いました、、、(意味不明)で、秘蔵のツーショット写真を、お店に目立たないように小さく飾っておきます。おっさん二人のツーショットも寂しいけど、、、



 カラン、カラン 呼び鈴が来客を知らせると、先日来店をしてくれたピアニストの女である。


「いらっしゃいませ」


「また、来ちゃいました。あっ、マスターお酒の前にお水一杯頂けませんか?」


 30を過ぎ、肌を気にしてドラッグ・ストアで買い求めたサプリメントを服用するそうだ。「コラーゲン」、肌に張りと艶を与え、関節の痛みも改善すると言う。お水を出し、


「まるで魔法のようなお薬ですね」


「はぁ、はぁ、はぁ、魔法ね、確かに。ちょっとサプリの中でも高目よね、これ。でもこれで肌がツルツルになってくれれば」


「はぁ、はぁ、はぁ、それは難しいんじゃないでしょうかね」


「え?だってすごい人気なんですよ、この商品」


 コラーゲンは、真皮、軟骨などを構成するタンパク質で、人の全タンパク質の30%を占めているとても大切な成分だ。しかし、コラーゲンを口径摂取し、果たしてコラーゲンに成るものなのであろうか。コラーゲンもタンパク質の一種で消化、吸収にはとてつもなく手間隙のかかるものであり、当然コラーゲンのまま体内に吸収されることは、あり得ない。仮にそのまま吸収されるようなことがあれば、間違いなく消化器系の疾患を疑った方がいい。診療をおすすめする。


 そして消化器官は、タンパク質を識別する能力など持ち合わせてはおらず、すべて同じタンパク質として処理されてしまう。体内でコラーゲンが生成されるのは、また、別の話である。


「え~、1600円もしたのに、これ」


「返品しましょうよ、1600円あれば、うちでハーパー2杯飲んでお釣りきますから」


「、、、封、開けちゃいましたよ、もう、、、」


 美容、ダイエットにとサプリなどがもてはやされるが、科学的にさほど根拠のあるものではないようだ。ただ、効果があると信じ通すことによって、身体になにかよい反応が出ることがあるのかもしれない。魔法が効いたかな?科学に「絶対」などはなく、信じるも信じないも自由である。

“Soul bar-IORI” Gospel

 私は無信仰が故に、教会の礼拝で歌われる賛美歌に興味はないが、“Gospel”は別物である。教会で歌い始め、その後、世界的スターに登り詰めたシンガーも多く、アフリカ系アメリカ人の音楽を語る上で、決して外すことはできない。



What a Friend We Have in Jesus - Cissy Houston


 奴隷制度の中、さらなる従順を誓わせるため、雇い主は奴隷として労働する者に聖書を与える。彼らは互いを助け合うコミュニティの場として、姿も形もない教会に集まり、聖書に出てくる言葉に自己の解釈をし歌詞にして、歌い、踊り始めた。ここに、“Gospel”の原型である「スピリチュアル」(黒人霊歌)が生まれたのだ。


 奴隷制度解放後、キリスト教に改宗したもの達が、黒人霊歌にみられる独自のブルーノートとヨーロッパ賛美歌を融合し、神に捧げた歌が“Gospel”である。


 “Gospel”を取り上げた映画で“Sister Act”邦題「天使にラブソングを」があるが、映画の舞台はマリア崇敬するカトリック教会で、“Gospel”はマリア崇敬のないプロテスタント教会で歌われてきた文化である。映画は本質とは異なっているようだ。作者は何かしらの意図があり、設定をカトリックにしたのであろう。


 ドアの呼び鈴が鳴り、来店を知らせた。歓迎したくない20代前半の男二人組である。


「いらっしゃいませ」


「あ~何をもらおうかな。おすすめは?」


「当店はバーボンを主に取り揃えておりまして、中でもブラントン、ブッカーズ辺りがおすすめですね」


「じゃ、俺はブラントン」「俺はもう一つのほうで」


「かしこましました。飲まれ方はいかがなさいますか?ストレート?ロック?」


「水割で」「あ、俺はソーダで割ってくれるかな」


「かしこまりました」


 もったいない、、、と思うも、客の希望であれば致し方ない。ワンショット1800円の高い酒を売りつけた私も悪い、、、。


「あの~すいません。BGMもっと明るい曲ないですか?AKBとか」


《アッカンべーだ。帰ってけ、クソがきっ!》と心の中では叫んだものの、せめてもう一杯飲ませてから、怒ることにしよう、、、。


「大変申し訳ございません。ア(A)ッカ(K)ンべ(B)、いや、AKBは用意しておりません」


「帰るかぁ~つまらん店」「帰ろ、帰ろ」


「ありがとうございます。4600円でございます」


「高っけぇ店!」


 お客様は「神」ですが、“Gospel”は捧げたくない、、、