紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 破壊

 目覚めはすこぶるよく、風呂とサウナを楽しみ朝食を済ませ、昨日探せなかった出島を目指し海岸に自転車を走らせた。


 素晴らしく綺麗な港で、遠くの埠頭には大型客船も入港している。


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 出島を探し何度も海岸線を行き来するが、出島ワーフと標識はあるものの見つけられず、派出所に飛び込んだのだ。
 対応してくれた警察官が、自転車ですか、いいですね、と興味を示したが、出島が見つけられずいらいらして、婦警さんとの会話なら気持ちも癒され多くの会話を持ったと思うが、お兄さんでは無理なのだ。


 警察官の説明では、出島は海岸にはなく市街地に存在していて、行くべき方向を指をさして教えてくれたのだ。復元を試みて、完全ではないものの公開もされていると言い、さっそく向かってみた。


 宿からわずか200mほどの距離で、内陸から架けられた橋は存在せず、島の船着場であった場所をえぐるように国道が走り、その国道側が復元出島の入り口となっている。


 歴史的価値は大きく、この地を象徴し観光の目玉にもなりうる場所であるはずだ。明治後期からの湾岸整備で埋め立てられたそうで、明治政府が江戸幕府のつくった人口島になんの思い入れがないことは理解できるが、原型を崩し走る国道はどうみてもここ何十年の建設であろう。市街地の整備計画に復元が入らなかったことがとても理解できない。


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 復元出島を見学し、昨日行った外国人居留地に自転車を走らせ、またコーヒーショップに立ち寄ると、おかえりなさい、と心温まる出迎えだ。コーヒーを頼むと赤と金が織り成す見事な伊万里に注がれていて、目も楽しませてくれる。


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 昨今どの観光地に行っても中国の方をよく見かけるが、今日は特に西洋の方を目にすると話すと、この地で製造されたイギリスの船舶会社が所有する豪華客船サファイア・プリンセス号が寄港し、市内観光が行われていると言う。どことなく振る舞いの良さを感じるのだ。決して中国の方の振る舞いを否定するつもりは毛頭なく、日本が高度経済成長を成し遂げた時代には、多くの日本人観光客が諸外国で、今の中国の多くの方と同じような行動を取っていたのであろう。


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 店を出て、グラバー園へと足を向けた。展示の中心は園の名前にもなっているトマス・グラバー氏であろう。オルトさんもリンガーさんも私は知らない。
 グラバー氏は鎖国の終わりと同時に来日し、政権交代に大きく関与した人物で、武器の調達や多くの薩摩藩士の留学支援に力を注いだ人物だ。また維新後には財政破綻したものの、元土佐藩士岩崎弥太郎の興した三菱とも深い関わりを持っている。この邸内で、激動の時代に多くの志士達と、明日の日本について語り合ったのであろう。
 また都市伝説の域を出ないが、フリーメイソンとの関わりを示すシンボルマークを見たかったのも園を訪れた理由だ。


 客船寄港で多くの西洋人がこの園を訪れており、当時の外国人居留地の趣を感じさせてくれたのではないだろうか。盗撮ではなく、当時の趣をと一枚美女の写真を頂いた。


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 美女を満喫、、、いえいえ、園を満喫し、私は長年思い描いていた場所に自転車を走らせた。



Primo piatto 偉大な英雄

 

 宿に戻り今日見て感じたことを、飲食コーナーのカウンター越しに目に入ってしまう、決して綺麗とは言えないお姉さまを見ないように、ビールを煽り物心にふけっていた。


 この地には至る所に坂本竜馬がいて、多くの銅像が建ち、街の象徴となっている。象徴ならまだしも依存している感さえあるのだ。人気があり目当てに観光客が増えることは望ましいのだが、私にはこの英雄がよくわからないのだ。なぜここまでもてはやされるのか理解出来ない。


 坂本竜馬が志士として活動した最初の組織は土佐勤王党で、絶対的な指導力を持った武市半平太にはその存在は遠く及ばない。薩長同盟を締結させたとされる件は、確かに仲介をしており、長州藩桂小五郎の覚書に証人として裏書もしているが、中岡慎太郎の功績が絶大だ。大政奉還を成し遂げたのは、後藤象二郎、高岡考弟の功績で献上したのは土佐藩主山内容堂であり、後押ししたのは小松帯刃だ。


 坂本竜馬の主だった活動は、薩摩藩から手の離れた社中が、土佐商会と合体し土佐藩管轄の元、海援隊として活動した組織の隊長を務めたに過ぎない。


 過去には江戸期に活躍した人物が、テレビドラマの中で英雄となったことがある。水戸光圀、大岡忠相、遠山左衛門尉景元などすべて実在の人物であるが、ドラマの中で描かれた人物像とは大きくかけ離れている。


 明治時代には当然テレビなどはなく小説の中で人物が描かれていったのだ。竜馬は柴崎紫欄が書き上げた幕末の英雄なのかもしれない。また、全国にファンの組織を持つなどの持てはやされ方は、歴史人としての扱いではなく、虚像崇拝に近いものがあると感じる。私は例えウルトラの星に行ける時代が来たとしても、決して行くことはないであろう。


 大きな期待をして訪れた社中も、歴史的価値のある展示は少なく、ただ竜馬グッズを並べただけに過ぎないものであった。幕末期に多くのことに関与した社中も偉大な英雄の前に影を潜めてしまったようだ。


Primo piatto 平和な世の中

 
 翌日目が覚めると、酒の飲みすぎであろう体が重く、すっきりとしない。雨も激しく降っており憂鬱だ。このまま滞在し雨の上がるのを待つか、JRで移動するかであるが、とりあえずチェックアウトを済ませ駅に向かうことにした。


 駅のコンビニで軽い食料を調達して、雨が上がったら自転車に切り替えようとJRに乗り込んだが、どうも身体が列車の移動を望んでいたようだ。途中の乗換駅で石碑があり、旅情と記されている。旅で感じる気持ちなのか、旅人の気持ちなのであろうこの旅情を求めて、旅をしているのかもしれない。


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 途中雨も上がり天候の回復をみせたが、体調がやはり思わしくなく列車を乗り継ぎ目的地の駅に着いてしまった。
 どこまでJRを利用するかも決めておらず、改札で清算をしようと切符を差し出し財布を用意していると、女性駅員がもう切符はいただきましたよと声をかけてきた。後から考えれば、そのまま改札を抜けられるのだが人はいざとなったとき正直なものである。途中までしか買っていないと説明し清算を済ませたが、知らぬ顔をして通り抜ければこれも立派な犯罪で、これで良いのだ。


 駅前の広場に出ると何かのイベントであろう、多くの若い女性がステージ前に陣取り、階上のフェンスにも人が集まっている。ざっと見た感じ200名はいる。厳重に警戒をされている中、仕切られた通路で私は自転車を組み立てようとしていると、私の横を数名の男性が駆け抜け、大きな歓声とともにステージに上がったが、彼らを私は知らない。警備員に何も言われることのなかった私は、石ころのような存在であったのであろう。
 歌っているのか、しゃべっているのかわからない彼らを尻目に自転車を組み立て出発だ。


 駅より南に進路を取り、適当なところで左折すると多くの中華料理店が軒を連ねている。横浜、神戸と並ぶ中華街だが、あいにく時間帯もあり多くの客で溢れかえっている様子はない。
 道に迷い派出所に現在地の確認をと飛び込んだのだが、どこに行きたいと聞かれ、思わず社中と答えていて、この地の滞在中に訪れたいと思っていた場所でもあり、道順も明確であり向かうことにした。


 通りから数百もの石段を登り建っていた社中は、想像していたものよりかなり小さな屋敷だ。


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 見学後、やはり歴史的価値の高い出島を目指したが見つけることが出来なかった。


 幕末期の外国人居留地に向かうと、多くの観光施設が人々を魅了している。時間も押し詰まり見学は明日にしようと自転車を走らせようとすると、こじんまりとしたコーヒー屋を見つけ、60前後とおもわれる細身でとても綺麗な女性が出迎えてくれた。自身を美しく見せることを怠らない女性は、いくつになっても素敵だ。


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 この店で宿の情報などを入れ、再び港周辺を自転車で走っているとカプセルホテルが目に飛び込んで来たのだ。しばらくビジネスホテルでの狭い風呂が続き、部屋でくつろぐよりも大きな風呂とサウナを楽しみたいと気持ちが勝り、チェックインをした。
 サウナと風呂を楽しみ、ちゃんぽんと看板の出た中華料理店に入った。ビールと餃子がお腹に収まり、お目当てのちゃんぽんを頼むと、白濁したスープに魚介類と野菜の具が盛りだくさんで麺が隠れてしまうほどだ。紅白のかまぼこは絶対的な存在なのであろう。


 さきほどのコーヒー店の客が、もう美味しいちゃんぽんを食べさせる店はないと言っていたが、本当においしいちゃんぽんを知らないのが救いかも知れない。ただ、感じたのは多くの中華料理店にあるように、化学調味料の使いすぎで舌がしびれる感じだ。コーヒー店の客がもらした言葉は、ここにあるのかもしれない。