紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 消えては現れる景観


 旅二日目の朝、熟睡できたのであろう、目覚めがすこぶる良い。窓を開けると空は雲ひとつなく青くどこまでも続く。身支度を済ませ、朝の自転車散歩だ。


 駐輪場で自転車の無事を確認して一安心だ。この駐輪場はとても明るく防犯カメラも設置され、盗みを生業としている方にはさほど苦にせず、プロの仕事として遂行するのであろうが、こと自転車の盗難に多い、歩くの面倒だからちょっと借りてしまおう的な犯罪には、十分の抑止がある。一日100円でこの安心は大きいのだ。各都市にもこのような駐輪場をいち早く作って欲しいものだ。


 先ずは駅を一周して駅西から自転車をすすめると一本の川にさしかかり、ここは夜に訪れる予定だ。土曜日の市街地の朝は、歩行者も車もすくなく快適に自転車を楽しめた。違法駐車に行く手を妨げられることも、歩道に乗り上げなければならない場面も一度もなく、駅前など車の乗り入れを禁止してしまえと、夢のようなしかし、すでにヨーロッパの一部では実現している街の姿を思い浮かべていた。


 ホテルに戻って朝食で、会場は4軒の店から選べ連泊の客には良いサービスだ。一軒を選びバイキングとあり、所狭しと並べられた料理は20種を軽く超えるであろう。
 しかしこのバイキングの呼び方だが、本来はブッフェが正しい提供スタイルの名称だが、このブッフェスタイルを初めて取り入れたレストランの名前がバイキングであり、決して提供スタイルを指したものではない。
 バイキングはそもそもスカンジナビア半島やデンマークに住み、ヨーロッパ海域を荒らしまわった海賊で、世界にはまったく通用しない呼称だ。
 鎖国に戻るならなんでも良いのだろうが、先進国を自負して世界の一員であることを誇るのであれば、使うべき言葉ではないと思う。


 東京五輪が決まり、世界中から多くの人が訪れることだろうが、多くのことを改善しないといけいことがあり、その中に自転車も含まれると思う。
 歩道上を暴走する自転車を見て諸外国の方はどう思うであろうか。ベルをかき鳴らし歩行者を蹴散らせ歩道を走る自転車。交通弱者を守り優先させるべき姿は日本ではまず見ることができないのだ。そもそも自転車が歩道を走れる国は日本ぐらいだ。
 自転車を利用する側ももちろん、行政が変わらなければいけないのだ。

 ホテルをチェックアウトする前に空きがないか確認すると、昨日は満室と伝えられたが空きがあり連泊が可能になった。自転車の件もあり体よくことわられたのか知る由もないが、土曜日のホテル確保がスムーズに行き、流すことにした。荷物を部屋に戻し市内の観光だ。


 ホテルを中心にして運河があり、奇抜な形をした商業施設、19世紀のヨーロッパをイメージしてつくられた地下街、そして野球場跡地につくられた公園で見事な桜を満喫し、東洋一を誇る臨海タワーを見学し、夕飯までホテルでしばしの休憩だ。


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 バスに乗り込むために駅前に出ると広場には、木を形どった電飾が多くの足を人の足を止め楽しませている。


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 川の流れが二股にわかれ出来た中州には、朝は見ることの出来なかった店が軒を連ね、多くの客で賑わい、一軒ののれんをくぐると全部で8席ほどで客同士肩を寄せ合い酒や食事を楽しんでいる。
  ビールと串焼きのセットを頂き店を出て、決して安くはないが、こと雰囲気を楽しむにはとても満足が出来た。食べることのみ欲するのであれば固定の店舗でいくらでもあり、ここでは雰囲気も含め楽しむ場所なのだ。
  いつまでも街の風物として残して欲しい景観だが、いずれ消えてなくなる運命だ。街を象徴すべきものは、どこにでもあるような商業施設ではなく、その街を象徴するべきものが相応しい。体感できたことに満足だ。


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Primo piatto 35年ぶり

 
 3時間半に及ぶ新幹線の旅が終わり、ついに来たぞ、と心の中でしっかりと叫んでいた。高校の修学旅行以来35年ぶりにこの地に降り立ったのだ。修学旅行の思い出は多く残るものの、当時さほどこの地に興味はなかったのだ。
 今は見て感じたいと思うことが多く、しっかりとした目的になっている。ここ数年の間にこの地を訪れることを計画するも、二度断念せざるを得ない状況で、今回ついに実現したのだ。ありきたりの言葉であるが、感動である。

 どこまで行けるのか、思い続けていたことがどう感じるのかは知る由もないのだが、より多くのことを体感したい。


 駅前広場には花壇があり、チューリップが見事に花を咲かせ、駅を行き交う人々の心を和ませている。だが、チューリップはこのことを決して誇らないのだ。街は高層ビルが立ち並び、きらびやかな電光に照らされ争いながら誇るように建っている。さて自転車を組み立ててホテル探しだ。


 自転車で走るまでもなく、ホテルが数軒並ぶ通りを駅口から見つけることが出来た。細かな料金比較をしている余裕はなく、手前から一軒ずつ当たるしか方法はないようだ。

 自転車を走らせ一軒目のグリーンホテル2に着き、空き部屋を訪ねると幸いにも禁煙だが空きがあり部屋が確保できた。
 駐輪場を訪ねると、ないとの返事で、部屋に上げることは可能か確認するとこれも無理との返事だ。袋詰めにすれば、と食い下がる私に、上司と相談してきますとフロントを離れていった。
 しばらくして戻ったフロント係は、移動の際に他の客に迷惑をかけないこと、そして部屋を汚したときは弁済をしていただくと言われ許可が出た。
 宿側から見れば仕方のない対応かもしれないが、あまり気持ちの良い対応ではなく残念であったが、この手のビジネスホテルで不快にさせない対応、サービスを望むのは難しいのかもしれない。結局自転車は駅に隣接した地下駐輪場を利用することにした。


 部屋に荷物を入れ、シャワーもせずにネオン街に繰り出そうと鍵をフロントに預けると、ホテル内に居酒屋があり、宿泊のお客様10%割引の案内に、釣り込まれ入店をしたのだ。
 35年ぶりの地での初めての店選びがこれでよいのかと考えることもなく、いたってすんなりと決めしまったのだ。お腹がそうさせたのかもしれない。

 店内はそこそこの賑わいをみせており、カウンターでよければと、案内されてビールと枝豆と名物の鍋を頼んだ。鍋は二名様からとかの店が多い中、一人前からオーダーを受けてくれて嬉しく思ったが、これが普通なのだ。

 ビールが届き、乾杯する相手もいないがグラスに注ぎ、宙にかざしてこの地に、そして何事もなく辿り着けたことに乾杯だ。ビールが三本目に入ったところで鍋の登場だ。

 澄んだ出汁の中にキャベツ、もやしが山のように積まれ、ニラ、ニンニク、赤唐辛子が層を重ね、ゴマがちりばめられている。主役は隠れてまだ顔を見せない。見事な峰は熱せられたスープの侵食で、台地となりそして平野が形成される。そしてすべてが沈んで、食べごろである。命にかえて私を満足させてくれた食材と調理をしてくれた店主に感謝である。

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Antipasto ハラハラ、ドキドキの体験

 列車はゆっくりと名古屋駅のホームに入る。自転車の固定を外して出入り口の前に立ち開口を待つと、折り返し亀山行きとなる列車を待ち、人が列を作っている。整然と並んだその姿に、日本人の行儀よさと右に習え的な嫌な感覚が交差する。

 扉が開き自転車を抱え降りようとすると、なんと我先にとダンプカーのごとく様相を化した中年女性が、私を押しのけ乗り込んでくる。その後も人が続き、ようやくひとりの女性が列車内への乗り込みをやめ、スペースを空けてくれ私は降りることが出来たのだ。日本人の行儀よさは、きっと見せかけだけのものなのだろう。
 しかし怖かった。自身の行動さえも美しく見せることを葬ってしまった女性は怖いのだ。


 駅にはなんと人の多いことなのだろうか。今日本が抱える問題で少子化があるが、専門的なことは理解しておらず、つたない文章もあって誤解を招く恐れもあるが、人、多いでしょ日本。人口密度だけ単純に見ればヨーロッパで日本を上回るのはオランダ、ベルギーの二カ国だけで、アメリカ合衆国を考えれば、人口は倍ほどだが国土は30倍だ。
 今の人口で形成されたしくみは、人口の減少で大きな弊害を招くことであろうが、これはまた別の話である。


 広々とした駅構内を、自転車で走れたらさぞ気持ちが良いだろうな。ずっしりと肩にのしかかる自転車の重みが、私にそう思わせたのであろう。


 JR東海ツアーズを探し、新幹線口に向かう途中に見つけることが出来た。窓口はいくつもあり、綺麗なお姉様やそうでないお姉様もいろいろで、どのお姉様に進路を取るか迷うところだが、それは許されず整理券を取ることになる。
 手を合わせ2番窓口にお願いと、祈り順番を待つがまだ来ない。順番が近づく度に、今2番が呼んだら私の目はないと、点灯するランプにハラハラドキドキだ。待ちに待って私の順番は次である。2番窓口では小汚いおっさんがいつまでも話していて席を立つ素振りもないのだ。用件が終わったら待っている人のこと考えて素早く席を立つのが思いやりであろう。
 3番窓口に私の持つ整理券の番号が表示され、新幹線と宿をセットにした切符が手配できるか確認を取ったのだが、ホテルに空きがなく残念ながら手に入れることが出来なかった。一軒一軒空きを確認して笑顔を絶やさず対応してくれとても満足である。丁寧な対応に感謝しつつも、いつまでも居座り続ける隣の男性に鋭い目線を向けていた私であった。
 このハラハラドキドキ体験は、無料で参加できるのでぜひお勧めしたい。


 名古屋駅構内には、多くの飲食店が軒を連ね競い合っている。中にはご当地ラーメンを一同に集めた街道なるものまであるのだ。しかし名古屋駅に来ればやはりホームのきしめんだ。アジサバ節と思われる出汁のきいたつゆで、モチモチ感も腰もない微妙な食感がたまらなく良い。調理も手早く、列車の待ち時間にも適している。

 名古屋は主だった産業は工業製品で、食に関する特産品もなく概ね既存食の変化形が多いのが特徴だ。このきしめんをはじめ、ひつまぶし、味噌カツ、あんかけスパ等も同じで、名古屋めしと呼ばれる品の多さも、こと特産品がない影響なのかもしれない。


 新幹線に乗るのはいつ以来なのだろうか。思い出そうとしてもなかなか思い出せない。過去に利用した主だった列車は私に多くの思い出を残してくれているが、新幹線はなぜか印象に残らないのだ。
 在来線からの乗り換えも円滑で、運行本数も多く私にとっては決して日常ではないのだけれど、あまり特殊なものではなくなってしまったのかもしれない。時間短縮や便利なものを求めると、何か大切なことを失ってしまう。


 早いことが良いことだけではなく、時間をたっぷりとかけて楽しむことも大切だ。20代の頃にお付合いしていた女性に、早すぎの役立たず、と蹴りを入れられたことを思い出す。