紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 残したいもの


 商店街では夕飯に辿り着くことが難しく、駅に足を向けると全国チェーンの居酒屋が二店営業をしている。単純に比較は難しいであろうが、この街にはこの居酒屋が二軒潤うだけの容量があって、この進出がなければ地元に根ざした居酒屋が二軒は潤うことができるはずだ。

 焼き物で有名な街ではあるが、観光が大きな収入源のはずだ。どこにでもあるような店舗があって、いったいどこが観光なのだろうと感じてしまう。たったひとつの建築物や看板ひとつで街の景観は大きく変わってしまう。自由社会であれば仕方のないことなのかも知れないが、どうしてこの進出を許してしまうのだろうか。

 食に家族の絆を重んじるヨーロッパでは、マクドナルドの進出が極めて難しいと言う。また、イタリアには地元に根ざしたバールがあり、スターバックスの進出も出来ていない。


 駅から東に目をむけるとふるさと会館があり、中を覗くことにした。やはり陶器を中心に展示販売がされており、伊万里などの派手さはないが土そのものを感じる陶器が多く、心が落ち着くのだ。ここにも食堂があったが、弊店まで1時間を切っており、他を当たることにした。


 どこにでもあるチェーン店の居酒屋に入ることはなく、駅から東に向け歩くと、小さな紙に印刷された屋台街の案内を見つけ向かってみた。日曜日もあってか遠めにシャッターが閉ざされ営業している感じはないが、写真に収めようと近寄るとそのうち二軒が営業をしている。


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 酒処とあるのれんをくぐると、カウンター10席ほどの店内に、水商売らしき女性と連れの男性客、カウンター内には70歳近くと思われる店主が構えていた。
 店内には演歌歌手の写真やサインが飾られている。よほど好きなのであろう。年齢を重ねてもなにかに熱中できること、これもまた素晴らしいことだ。
 ビールを頼み、カウンターに並べられた煮物をつまみに飲み始めると、注文したときのイントネーションの違いであろう、地元ではないねと声を掛けられ旅の話、そして駅前に並んだ全国チェーンの居酒屋にまで、先客を交え盛り上がったのだ。先客は同伴出勤とのことだが、自分たちの世界に浸ることなくとてもオープンで気さくだ。

 酒もかなりすすみかなり酔いが回ってしまったようで、あまり記憶がないが楽しい酒であったことは間違いなく、サラダをサービスしてもらったことや、支払いもかなり安かったことはしっかりと記憶している。心優しい女性店主に感謝である。




Primo piatto 言葉

 
   曇り空は遠く水平線との境をあいまいにし、薄っすらと浮かぶ島々をより幻想的に映し出している。晴れた日にはその美しさがあり、また雨の日もしかりである。


 やがて県境を越え松原が覆う。このとき雨が少しだけ降り出したのだ。日本三大松原のひとつで、4km以上に及び見事な景観を作り出している。もちろん自然ではなく人の手によって植えられたもので、多くの風、波から災害を最小限に留めてきたのであろう。人が授かった知恵は、このように使われるべきで、ここまでに留めておくことが適当なところなのであろう。


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 本来の目的を大きく外れ、利権や欲を絡めた行き過ぎた行為は必ず破滅を伴う。私の住む三重県も長良川に塩害を防ぐ名目で堰が造られたが、見苦しい景観を伴い、生態系を狂わせ死の川に導くのだ。堰付近で見られたシジミ漁はもう見ることは出来ない。


 松の木に助けられたのか、松原を抜けるとかなりの降雨で、雨具の着用が必要だ。近くの駅に立ち寄り雨具着用で宿の取れる街に急ぎ、10分ほどで市街地に到着でき、一軒目のビジネスホテル千歳に飛び込み部屋が確保できたのだ。


 宿は大資本の経営ではなく、家族で営む様子が伺われ落ち着いており、出迎えてくれた女性もすごく綺麗な方だ。宿帳を記入していると、自転車はこちらにと、以前喫茶店をしていたと思われるスペースを空けてくれたのだ。とても気の利く女性だ。大資本の充実した設備も価値はもちろんあり、それを好む人もたくさんいる。しかし私は好きだな、この雰囲気。


 しばらく部屋でくつろぎ、夕食も兼ねて街の散策に出かけようと、フロントで鍵をわたすと、傘を持っていないことを察知し、お使いくださいと借り受けたのだ。この女性の対応はすべてが先手であり、しかも押し付けではなく自然に流れている。とても素敵な宿が見つかった。


 駅とは逆に向かい商店街を散策したが、多くの店がシャッターを閉ざし活気は見られない。定休日には思えない店がほとんどで、多くの地方都市に見られる現象なのであろう。地名からは中国との国交が盛んに行われ、古来より活気に満ちた街であったことは容易に想像が出来る。近代化とは何を残していくことなのか、私にはわからないことが多すぎるのだ。
 商店街の外れに小さな寺院があり、入り口の掲示板に書かれた言葉が印象的であった。

 「美しいのは花そのものではなく、そう感じる心である」


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Primo piatto 期待に膨らむ胸


 旅三日目の朝を迎えたが、昨日まではある程度行程を決めて行動しており、今日からが本当の旅の始まりかもしれない。


 朝食は昨日とは違う店で取り、こちらもバイキングとあり内容はほとんど変わりはしない。 
  店の中は日曜の朝にも関わらず、若いスーツ姿の女性が多いのだ。きっと新人研修なのであろか、綺麗な方もそうでない方も真新しいスーツに身を包み、皆、期待に胸をふくらませ、中にはベストのボタンがはち切れそうな方もみえたりで、とても愉快で楽しい光景の中での食事であった。
 自分の20代を振り返るが遠い昔の話だ。彼女たちも次々と店を出て、ここに居る価値もなくなったところでいよいよ出発だ。


 私が向かう方角は南西で、それだけを考え自転車を走らせた。標識に出てくる地名など何一つわかるところはなく、頼るべきものは方位磁石のみだ。鍵の束に付けて、いつでも確認できるように自転車の小物入れにしのばせておいた。


 途中自転車店を見つけたので空気の補充だ。店舗の外に設置してあった空気入れでは形状が合わず、店舗の中に借り入れを頼むと可愛らしいお姉さまが対応してくれ、忙しい中補充も行ってくれて感謝である。空気圧も適正で走行は快適だ。


 しばらく国道202号線を走っていると、信号待ちの車がラインを超えて停まっており、行く手を妨げられ歩道に逃げようとしたときスピード、角度ともに目測をあやまりペダルから足が外れる前に転倒である。お気をつけてと、声を掛けて見送ってくれた、自転車屋さんのお姉さまの言葉が妙に虚しく感じられてしまった。

 歩道で自転車を起こし異常の確認をしたが、フレームに傷が付いただけで済み問題はない。自転車乗りの多くが落車をすると、自身の怪我より先ずは自転車の無事を確認してしまうと聞き、私も同じ行動だったのが妙におかしかった。幸いに季節がら長袖を着用していたこともあり擦り傷もなく済んでいた。
 もし空気圧が減ったままこの事態を招いたら、パンクの可能性もありお姉様に感謝、感謝である。再度このお姉さまにかけてもらった言葉で気を引き締め出発だ。
 様子を伺っていた車のおにいさんに大丈夫かと声をかけられたが、放っておいてほしかった。こちらは落車して恥ずかしいのです。


 国道に進路を取り続け、想定外の海に出くわした。もっと南に進路を修正しないといけないが、あまりにも美しい海で、平行してJRも走っていることからこのまま海岸線を走ることにした。


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 朝の天気予報は15時ごろから雨で、雨具は用意しておらず、いつ降り出しても良いようにと、この先あまり購入機会もなさそうで、コンビニに立ち寄り休憩も兼ね雨具の購入だ。
 雨の走行は危険が多く、出来ることなら避けたいし、最小限に留めたい。理想は降り出す前に宿に入ることだが、それほどうまく行くことは難しいであろう。最悪はJRも走っており、激しく降れば宿のある街まで輪行すれば良い。


 美しい海を右手に、JRの少し古めかした味わいのある列車が左手に私を追い抜いて行く。休憩を取ったばかりだが、パーキングエリアがあり立ち寄ることにした。

 商業施設は入っておらず、景観を楽しめるスペースがあり、観光案内所が入っている。現在地の確認と地図が頂けないか案内所に入ると、いらっしゃいと迎えられ、ゆっくりと休憩していってくださいねと、お茶とお菓子を頂いたのだ。
 自転車旅は珍しいと話すが、大阪から旅に出たと言う自転車乗りの男性がすでにくつろいでおり、時を同じくして重なったことに驚いていたのだ。
 この男性も交え時間にして15分ほどだが話をして、雨の心配もあり先を急ぐことにした。地図と雨が降ったらザックにかけてとビニールの袋も頂き、感謝、感謝である。