紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” あんスパ

 名古屋は先回ご紹介したように「イタスパ」「インディアン」「ミート」と3種のスパゲティがあるが、これはあくまでも喫茶店での軽食。調理に特別な技術も知識も要さない。名古屋めしはきしめん、味噌着込みうどんがあるように麺料理が多く、前記のスパゲティだけではなく、「あんスパ」を専門に提供する店が多い。「あんこ」を乗っけたスパゲティではなく、「あんかけスパゲティ」だ。


 BGMはイタリア歌謡「村の娘」をカバーした曲。



The Woodpecker Song-Glenn Miller Orch


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると明日香が顔をだした。


「ねえ、マスターこないだ名古屋でパスタ食べ、他に面白い料理が名古屋にないか調べてたらあんかけスパゲティってあったの、知ってる?」


「もちろん」


「ねえねえ、どんなパスタ?友達とマスターに聞いてからまた食べに行こうかって話してたんですよ」


 あんかけとは中華で多用されるように、液状のスープ、つゆ、タレに「とろみ状」の粘度のあるものをかけたものだ。このソースのベースはイタリア料理らしくトマト(ピューレ)を使うが、味にトマトの濃厚さや爽やかな酸味を感じることほとんどない。胡椒を多用することで辛いのが特徴だ。仕込から完成に至るには一週間程かかると言い、肉、野菜は原型を留めることはなくソースと一体化している。さすが専門店で提供される料理であってきちんとした仕事はしている。


 このソースがあんスパの命であり、多くのメニューが記されるが具の違いだ。使用されるパスタはスパゲティサイズ(太さ)を大きく越えて、イタリアではスパゲティとは呼ばないサイズ。ここでも茹でたて麺を使うことはなく茹で置きされたものを使い、炒める店に、低温の油で揚げる店もある。


「マスターそう言うとこうるさいですもんね、面倒臭いですよ」


「自己の発案を発信するなら自由ですけど、既存のものを発信するのであれば、自分に必要のない決まりだと思っても守るべきです。自由と好き勝手を混同してる日本人が多いことは悲しいですよ。社会の中での自由は必ず責任が伴うことをわきまえて、自己主張だけではなく、他を思いやる気持ち、尊重することはとても大切です。無責任な発信で、後世に国際社会で恥をかかせちゃだめです」


「耳が痛い~~~~っ!日本はどこか馬鹿にされてるとこあるんでしょね」


「日本が真のリーダーとしてアジアを引っ張っていかないといけません。それにはまだまだ学ぶことがたくさんあるのではないでしょうかね。あんスパは、、、


 発祥はスパゲティ・ハウス・ヨコイで、従業員の独立や人気にあやかり多くの店が名古屋には存在する。ヨコイは現在直営の3店舗で営業をしており、のれんわけやFCは行っていないが、FC化の動きがあるようだ。元祖としての地位、味、顧客の満足を維持できるかは経営者としての腕の見せ所。FC展開を目指すのであればリスクを負うこととなるが、そこを目指すのであれば成功して欲しい。


 私のお気に入りは「スパゲティ・ハウス・こだま」のあんスパ。ヨコイに比べピリ辛感が強く、額に汗をかくぐらい刺激的。添付されるポテト・サラダもナイス!20代は勤務先と近く月に数回は通っていた店。三重に来てからも、名古屋に行けばよく訪れている。15席ほどの狭い店ではあるが、何かホッとする温かい店だ。大きくすることだけが正義ではないと私は思う。


          

(写真はすべて頂き物です)

“Soul bar-IORI” 味噌

 味噌は大豆の発酵食品であり、日本で独自の発展を遂げた調味料だ。使われるこうじにより、米味噌、麦、豆に分けられる。米味噌とは米を発酵させたものでは決してない。あくまでも大豆を発酵させたものが味噌で、酵母の種類によって分類される。味噌の約8割が米味噌だが、名古屋に多い赤味噌は豆味噌。熟成期間がながく色が付くようだ。


 若い方はあまり使うことがないかもしれないが、「手前味噌」と言う言葉がある。自分で自分を褒めたり、自慢するときに使う言葉で、「恐縮ですが」と同様に前置きし使われ、自家製味噌のこと。また、「重要」「ポイント」であることを伝えるのにも「味噌」を使う方が多いのではないかと思う。


 味噌が日本人に慣れ親しまれ、各家庭で造られていたことや、とても大切なものであることを表し、日本の食文化の素晴らしさでもある。アメリカ人は「そこがケチャップだよね~」とは決して言わない。食の欧米化が進み、味噌の消費も随分と減ってしまったのであろう。


 BGMはペダル・ポイントを使った曲。ペダル・ポイントとはコード進行に関係なく、ベース奏者などが同じ音を鳴らし続けるもの。音楽を聞くことに演奏上の理論はまったく意味がないが、味噌につながるものが思い当たらない、、、



Naima - John Coltrane


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、彩香が顔を出した。ジンロックを頼み、何かつまみを考えているようだ。ジンロックを提供しスティックサラダをおすすめした。


「あ~、今日のディップお味噌なんだぁ~美味しい。お味噌って意外と何でも合うんですね。朝もトーストとハムエッグなんかでお味噌汁も飲まなくなっちゃったし、お味噌って身近なようでなかなか使わないな~」


「さようでしたか、日本人の味覚にはすごく合うんですけどね。私の子供の頃は何でも味噌。特に名古屋は味噌を使った料理が多いですからね」


 日本は若い人達だけではなく、高血圧を予防する意味でも塩分の多い味噌を控える方が多いと思う。私は高血圧と塩分摂取の因果関係など信じておらず、血圧が上がることも自然の摂理であって身体が必要として血圧を上げているものと認識している。過剰摂取はしないが、減塩など気にしたことがないし、減塩とうたわれる食品の方が身体には遥かに悪いとすら認識をしている。まぁ、これはまた別のお話。


 食材は菌による発酵がなされた場合、その素材が持つ栄養素だけではなく、多くの栄養が含まれ旨みも増す。菌の「生産物」により複雑な味が醸し出されるのだ。生産物とは、、、やめておこう、、、発酵食品を取れなくなる人がいるかもしれない。


 発酵食品は世界中に多くのものがあり、日本固有の文化ではないが、日本にも素晴らしい発酵食品が多くある(あった)。酒はもちろん、みりん、酢、醤油などの調味料から、挙げれば切がない。アメリカはその点で、食品の生産工程に発酵を要する物を嫌うようだ。アメリカはとても好きな国であるが、こと食に関しては見習いたくないことが多い。ある年齢に達したら太めの方が多いのもアメリカだ。食だけではなく、車社会に慣れ親しみ身体を動かすことが少ないことも要因だ。アメリカの悪い面をあえて取り入れる必要は何もないと思う。


「そうなんだ~、なんでも欧米に影響されて真似することが格好いいなんて思っちゃいけないですね。日本に古来からあるものは世界に誇れる物が多いんですね」


 名古屋めしと呼ばれるものは既存食のアレンジが多いが、古くから伝わる伝統ある味噌を大切にすることは、大いに自慢できることだと思う。


(写真はすべて頂き物です。味噌おでん、味噌カツ 味噌煮込みうどん)

“Soul bar-IORI” 飛ばない鶏

 もし私に翼があるとすれば、大空に舞い、向かうべきところは温泉街だ。温泉街は美しい景観に囲まれた地が多く、空から見てみたい。決して女性の露天風呂を覗きたいわけではない。あっ、まったく関係のない話だが、私の愛する人の次男坊が「翼」くん。大空を舞い、女性風呂を覗くような真似はして欲しくないと願う。ただ、私を抱えて飛んでくれるのは、特別に可。私を温泉街に連れてって~~~


 名古屋は飛ぶことを忘れてしまった鶏の手羽を唐揚げにした料理が有名だ。鶏料理専門店を営んでいた男が、出汁にしか使われることのなかった手羽に着目し、すでに完成されていたタレで味付けをし出されたのが始まりだ。「風来坊」の創始者が頑固なまでにこだわったものが「のれんわけ」で、修行をし、認めたものだけに出店を許すものだ。こうして手羽先の唐揚げは名古屋を中心に広がりを見せていく。


 人気が高まり、唐揚げにタレを塗りスパイスを効かせたこの手羽先料理は多くの店で真似をされ始める。名古屋発祥の手羽先の唐揚げを全国区にしたのも実は元祖ではない。居酒屋修行時代の店舗の隣が「風来坊」で、「串カツ焼き鳥のやまちゃん」をオープンさせた男は風来坊とはまったく関係のない男。やまちゃんの手羽先は、甘みを抑え、よりスパイスを効かせた仕上がりで、人気は二分されていく。私の学生時代のバイト先であるジャズクラブの近くにあり、朝の5時まで営業していた関係でよく訪れていた店だ。


 BGMは赤い鳥の「翼をください」も考えたが、やはりこの曲だ。オリジナルのジミヘンを探したが良い音源が見つからず、このバージョンで。



Santana - Little Wing (Joe Cocker) GUITAR HEAVEN


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、新規の女性客二人組みが現れた。


「いらっしゃいませ、お二人様でよろしいですね。お好きなお席にどうぞ」


 二人はカウンターの中央に座りカクテルを頼んでいた。私は氷を落としたミキサーにジンを45mℓ、ドライベルモットを15mℓ入れステアーし、ミキサーにストレーナーをセットした。続いて、シェイカーに氷を落とし、ジンを30mℓ、ペーパーミントリキュールを10mℓ、パイナップルジュースを10mℓ入れ、シェーク。ミキサーからカクテルグラスに注ぎ、レモンピールを振りかけ、シェーカーからカクテルグラスに注ぎミントチェリーをグラスの淵に添えた。


「ドライ・マティーニとアラウンドザワールドでございます」


 会話から二人は旅行者であり、明日は名古屋に向かってみようと言う。行程を決めずに思いつきで行動をしているようだ。旅の理想系である。明確な目的があり、目的を達成することを最優先した場合、道中は単に移動と化し、さほど大きな意味は持たない。明確な目標を定めない場合は、道中にこそ多くの出会いがあり、新たな目標設定をする機会となる。


 そして二人は名古屋で手羽先を食べたいと話している。私は店を訪ねられ名古屋の手羽先の事情を話していた。


「どちらが美味しいかは好みがあるでしょうから私には何とも言えないのですが、『風来坊』は他県にものれんわけで展開はしていますがあくまでも数は少ないです。一方の『世界の山ちゃん』はもう至る所に出店されもう名古屋を楽しむ意味はないと思いますよ。単に手羽先を求めるならどちらでも構わないし、こと名古屋での手羽先を楽しむのであれば、元祖でもあり風来坊ではないでしょうかね」


 世界の山ちゃんは名の通り名古屋に留まることなく世界に目を向け、フランチャイズ展開をする企業に上り詰めた。手羽先を全国区にした功績も大きい。飛ぶことを忘れた翼で世界に飛び立った。


 元祖である風来坊はのれんわけのみで店舗展開をし、飛ぶことをしない。企業としての戦略であり、どちらが正しいかではない。ただ、金を出せば営業できる店舗と、金を出しても営業させてもらえない店舗の価値は大きく違うと思う。私の個人的な意見として、名古屋の手羽先は風来坊だと感じる。

(写真は頂き物です)