紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Second piatto 怪しい人物


 きっと私に恋をした、彼女と別れを告げ、次なる目的地に自転車を走らせた。


 市街地から進路を東に向け走り、その後、南に進路をとり海岸に出る予定だ。海岸に出ると見事な景観が姿を現す。大小の島が浮かび、まるで海面が光を放つがごとく輝き、爽やかな潮風が吹いている。しばらく自転車を停め景色を楽しむのだ。


 この海道も多くの自転車乗りが訪れるコースであるが、幹線道路でありかなりの交通量である。自転車の走行帯も区分されておらず、確実なライン取りが要求される。景色は素晴らしいがサイクリングに適した道路ではないようだ。


 さらに東に進路を取り、戦艦大和の街に入るもコンビニ休憩だけで全てをスルーした。殺戮のために作られた道具に興味はない。


 トンネルに入ると、自転車の走行帯は歩行者と共有であり、片側の相互通行で、自転車乗りのマナーが要求される。自転車が歩行者を守ってこそ、車道で車から守られる存在になって行くのだ。


 長いトンネルを抜けしばらく走ると、また綺麗な海が視界に飛び込んで来る。


https://public.muragon.com/bhv30qla/llgpp0at/resize/184x184.jpg?dummy=1505569520403


 先には大きな橋が掛かり、たぶん私に恋をした、彼女お勧めのサイクリングコースの起点となる橋である。
 橋を渡り、島をぐるっと一周したのだが、かなり大きな島で多くの時間を要してしまった。この海道はまた次回の楽しみに取っておくことにしよう。


 再び幹線道路に戻り東に進路を取るも、かなり時間が押し詰まっており、輪行しない限り宿を探し当てることは不可能である。駅に辿り着いた時間は19時を回っており、公園で出会った、彼女の言葉が脳裏をかすめた。


「それはかなり無謀だと思いますよ」


 私が目指し場所は優に倍の距離を越えてしまうのだ。やはりあなたは正しく知的で、私は単に馬鹿。


 駅で自転車をばらしていると、珍しい光景なのか一人の中年女性に声を掛けられた。こんどこそ逆ナンされるのか、私。
 話をしているうちに人が集まりだし、気が付けば10人ほどに囲まれている状態だ。自転車を持ち上げて軽いと驚くおじさんや、三重から来たと話すも、三重がどこにあるのか知らないおばちゃんなどいろいろである。
 この方たちは自警団を組み、夜の見回りをするのだと言う。ただ、怪しい人物として多くの質問をされたに過ぎなかった私だ。
 ミーティングが始まり、代表者から見回る順路が言い渡され、悪を滅ぼし住民の平和を守るため、夜の街に姿を消して行った。
 私は滅ぼされずに済んで助かった。


 目指す海道の起点駅に着き、宿探しなのだが一軒一軒空きを探すよりも、時間の関係もあり宿の一覧を手に電話して聞くことにした。あいにく何処も空きがなく、さらに先の街を目指し列車に乗り込んだのだ。


 最初からサウナに絞って情報を得ようと聞き込みだ。自転車を押して歩く若者にカプセルがあると教えていただき、向かって部屋を確保した。
 駐輪スペースにかなりの不安があり、フロントに尋ねると、


「そのままでよいのでこちらに置いて下さい」


とフロント横のスペースをくれたのだ。屋内の24時間監視付きの一番安心できる場所である。対応してくれたちょっと太めなお姉さんに感謝、感謝である。


 時間も21時を過ぎ、裕著にお風呂を楽しんでるわけにはいかず、食事だ。館内の食堂でもいいのだが、明日はこの地を離れるつもりなので、どうしてもお好み焼きが食べたかったのだ。
 心優しいちょっと太めのお姉さまに店を訪ねると、手招きされ、カーテンを開け外を見ながら説明をしてくれたのだ。
 指を差しながら、あそこをと身を乗り出した瞬間、突起した柔らかな感触が私のひじを直撃。そしてさらに身を乗り出しもう密着状態で、幸せな気分に浸りまともに説明が聞こえなかった。
 駅で滅ぼされなかったことを改めて感謝するとともに、ちょっと太めのお姉様には、大感謝である。そして満室であったホテルにも感謝である。心憎い粋なサービスであった。


 教えてくれた店はお好み焼きの専門店ではなく、メニューにあると言うものであるが他に当てもなく行くことにした。鉄板焼きでメインはステーキのようだ。味は残念ながら???マークがたくさん付いてしまったが、旅にはこんなこともあり得るのだ。美味しいとは決して思えないお好み焼きも、ひじに残る感触が私を幸せにしてくれて、どうでもいいのだお腹が膨れれば。


 宿に戻りちょっと太めのお姉さまから、おかえりなさいと声を掛けていただき、またひじに柔らかな感触が蘇ったのだ。


×

非ログインユーザーとして返信する