紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Second piatto 魅惑のおしり


 朝食を済ませ宿を後にし、自転車乗りの聖地と呼ばれる海道を目指す。いくつもの島を経由し、民官一体となってサイクリストを受け入れる、日本では数少ない場所のひとつだ。一気に走破するもよし、のんびりと島をめぐり何泊もかけて行く事も楽しいであろう。


 昨夜も訪れた起点駅には、ホームに自転車が飾られ、気分を高揚させてくれる。駅に隣接して自転車の組み立て場が完備され、サイクリングに不要な荷物が預けられるコインロッカーが用意されている。土曜日ともあって多くのサイクリストに混じって自転車の組み立てだ。


 駅近くのコンビニに立ち寄ると、スポーツ車用の駐輪ラックの設置があり、まず驚かされる。ボトルに水を入れさっそくスタートで、気合を入れて走るも100mほどの距離であった。


 一つ目の島に渡るには橋ではなく渡船で、その前にはサイクルオアシスと言う案内所も設けられ、地図に空気入れ、洗浄剤、チェーンオイルなども用意され細やかなサービスを無料で行っている。ここで空気の充填をし地図を頂き乗船だ。


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 船は島民の普段の交通手段であり、地元の方が半数ほどで自転車の方も徒歩の方もいる。後は観光客らしく家族連れのサイクリング、貸し自転車のグループ、全身レーススタイルのサイクリスト達だ。今回の乗船にはなかったが車も乗せられるようだ。ほんの数分の船旅である。

 渡船場の入り組んだ路地を抜けるとブルーラインが始まる。地元の子供も年配者も左側通行を守り、日本の各地で見られるような歩道上で歩行者と自転車が混在する姿は見られず、車両としての自転車の存在を明確にしている。
 自転車が中途半端な存在であり続ける限り、乗り手の責任感も薄れる。存在を明確にすることで責任も生まれてくるのだ。

 ブルーラインはしばらく市街地を走り、海沿いに出る。天候にも恵まれどこまでも青く海と空が続き素晴らしい景観を生み出している。この景色を眺めながら大好きな自転車で走れることがどれだけ幸せなことか。多くの方にも体感して欲しい。
 普段自転車の活用をしていなくても、自家用車を降りて、レンタルで自転車を選びこの海道を走る人が多いのもとても素晴らしいことだ。


 島のほぼ最終地点に休憩所があり、風景を楽しもうと立ち寄ってみた。ベンチには初老の男性が腰をかけ海を眺めている。この島で生まれ育ち、県外での生活を経て定年後に島に戻ったと言う。


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 人らしく生きるとはどんなことで何が望ましいか、人それだろうが、この男性との会話はとても落ち着き心温まるものであった。


 橋を渡ると、戦国の世に操舵術を屈指し暴れまわった村上水軍ゆかりの島である。水軍の詳しい記述は避けるが、多くの文献があり、海に生きるとはどう言うことか知ることが出来る。旅をし新たに得た知識を後日深く掘り下げてみるのも楽しいことかも知れない。


 島のブルーラインの多くは、海沿いから外れのどかな丘陵地帯を走り、様々な景観を楽しみながら走ることが出来る。


 この島で不慣れと思われる自転車で、ぎこちなく車道と歩道を交互に走る一人旅の方を前方に確認した。距離を取り、歩道に入ったところで追い越しを掛けようとするも、また車道に出てきて追越が出来ない。圧迫感を与えないように少し離れ、ゆっくりと楽しむことにした。


 周りの景色を楽しむのはもちろんだが、その女性の左右上下にこっけいに動く後ろ姿もこれまた楽しく美しい風景である。
 おしりを眺め走行するも上り坂に差し掛かり、距離が縮まりペースを合わせる事が困難で、追い越しますと声を掛け一気に抜き去ったのだ。動きに魅了された楽しい時間は数分のことであった。


 新たな橋を渡りブルーラインは海沿いを走る。大小様々な形をした島がいくつも浮かび、美しい景観を作り出す。きっと鳥達は、もっと美しい景観を見ながら空を飛んでいるのであろう。


 コンビニを見つけコーヒータイムだ。駐輪ラックはもちろん、休憩用のベンチも用意され、英式、仏式ともに空気入れも置かれている。
 ベンチに腰掛けコーヒーを楽しんでいると、こっけいな動きを見せるおしりが通り過ぎて行った。きっとサドル位置が高く、余計な動きが出てしまっているのであろう。身体を痛めることなく、無事にサイクリングを終えることを祈るばかりだ。


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