紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 35年ぶり

 
 3時間半に及ぶ新幹線の旅が終わり、ついに来たぞ、と心の中でしっかりと叫んでいた。高校の修学旅行以来35年ぶりにこの地に降り立ったのだ。修学旅行の思い出は多く残るものの、当時さほどこの地に興味はなかったのだ。
 今は見て感じたいと思うことが多く、しっかりとした目的になっている。ここ数年の間にこの地を訪れることを計画するも、二度断念せざるを得ない状況で、今回ついに実現したのだ。ありきたりの言葉であるが、感動である。

 どこまで行けるのか、思い続けていたことがどう感じるのかは知る由もないのだが、より多くのことを体感したい。


 駅前広場には花壇があり、チューリップが見事に花を咲かせ、駅を行き交う人々の心を和ませている。だが、チューリップはこのことを決して誇らないのだ。街は高層ビルが立ち並び、きらびやかな電光に照らされ争いながら誇るように建っている。さて自転車を組み立ててホテル探しだ。


 自転車で走るまでもなく、ホテルが数軒並ぶ通りを駅口から見つけることが出来た。細かな料金比較をしている余裕はなく、手前から一軒ずつ当たるしか方法はないようだ。

 自転車を走らせ一軒目のグリーンホテル2に着き、空き部屋を訪ねると幸いにも禁煙だが空きがあり部屋が確保できた。
 駐輪場を訪ねると、ないとの返事で、部屋に上げることは可能か確認するとこれも無理との返事だ。袋詰めにすれば、と食い下がる私に、上司と相談してきますとフロントを離れていった。
 しばらくして戻ったフロント係は、移動の際に他の客に迷惑をかけないこと、そして部屋を汚したときは弁済をしていただくと言われ許可が出た。
 宿側から見れば仕方のない対応かもしれないが、あまり気持ちの良い対応ではなく残念であったが、この手のビジネスホテルで不快にさせない対応、サービスを望むのは難しいのかもしれない。結局自転車は駅に隣接した地下駐輪場を利用することにした。


 部屋に荷物を入れ、シャワーもせずにネオン街に繰り出そうと鍵をフロントに預けると、ホテル内に居酒屋があり、宿泊のお客様10%割引の案内に、釣り込まれ入店をしたのだ。
 35年ぶりの地での初めての店選びがこれでよいのかと考えることもなく、いたってすんなりと決めしまったのだ。お腹がそうさせたのかもしれない。

 店内はそこそこの賑わいをみせており、カウンターでよければと、案内されてビールと枝豆と名物の鍋を頼んだ。鍋は二名様からとかの店が多い中、一人前からオーダーを受けてくれて嬉しく思ったが、これが普通なのだ。

 ビールが届き、乾杯する相手もいないがグラスに注ぎ、宙にかざしてこの地に、そして何事もなく辿り着けたことに乾杯だ。ビールが三本目に入ったところで鍋の登場だ。

 澄んだ出汁の中にキャベツ、もやしが山のように積まれ、ニラ、ニンニク、赤唐辛子が層を重ね、ゴマがちりばめられている。主役は隠れてまだ顔を見せない。見事な峰は熱せられたスープの侵食で、台地となりそして平野が形成される。そしてすべてが沈んで、食べごろである。命にかえて私を満足させてくれた食材と調理をしてくれた店主に感謝である。

https://public.muragon.com/bhv30qla/hhu8q3a7/resize/184x184.jpg?dummy=1505007575830






×

非ログインユーザーとして返信する