紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 加点と減点1 

 物、人を評価するには概ね二通りがある。すでに完成形として形があったり、理想とする物(者)を100とし、劣る点を見つける減点評価。そして0からスタートをし、優れた点をみつける加点評価。戦後の日本はアメリカを目標にし、様々な製品をコピーして経済成長を成し遂げた。理想とする国、製品の完成形が存在し減点することで物事(人物)の善し悪しを評価してきたのではないかと思う。結果、どちらにしても同じ点数が付くのなら同じ事か、、、


 BGMは困難に行く手を妨げられた男の心情を歌ったもの。昔、この曲をカバーしたとき、レゲエのリズムなど日本人は残念ながら根底に持ち合わせておらず、単にバラードになってしまった曲。



Jimmy Cliff- Many Rivers To Cross
 
カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると優子が顔をだし、女性の新規客を伴っていた。優子はハーパーのロック、そしてもう一人の女性はブラディメアリーが飲みたいと言う。



 私は葉付きのセロリとレモンスライスを用意し、氷を落としたタンブラーにウォッカを45mℓ入れ、トマトジュースで満たしステアーした。セロリのスティックをグラスに落とし、レモンスライスをグラスの淵に飾った。



 二人はピアニストとウエイトレスの違いこそあれ職場の同僚で、新規女性は入店からまだ間もないのだが、サービス業の経験はあるようだ。マニュアル以外を認めようとしない指導係の先輩に苛立ち、ときに口論をすることもあり関係があまり良好ではない。愚痴をこぼせる相手は職種の異なる優子が好都合なのかもしれないが、接客の経験のない優子は返答に困る様子も見せている。



「ねえ、マスター、マニュアルってさ、お店の決め事だったりするわけだから必要なものなんですよね」



「そうですね、複数の人間が交代でする仕事とかで、安定したサービスを提供するには必要かもしれませんね」



「でしょ~、だから由紀ちゃんも我慢しないと。マニュアルを教え込んでスタッフがその通りに動いてくれることが彼女の仕事なんだから、そこもわかってあげないとさ」



「でも、何でも雁字搦めで嫌だなぁ~、彼女よりお客様を笑顔にする自信はあるわ」



「確かにね、私も見てて、私が客だったら由紀ちゃんの接客を受けたいと思うものね」



 マニュアルには事細かに社内規定を盛り込んだ物もあり、これは集団生活の中で守るべき必要があるであろう。しかし、実務的な取り決め、マニュアルとはどんな目的があるのだろうか。一定のクオリティを維持させるため存在はしているのだろうが、マニュアルが必要な人、これは仕事が出来ない人にとってとても重宝するものでもある。教えられる側は経験がなくもちろんのこと、教える側にしても、教える能力を持たずとも教えることが出来るもの、それがマニュアルであるのかもしれない。


                                      続く

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