紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 飛ばない鶏

 もし私に翼があるとすれば、大空に舞い、向かうべきところは温泉街だ。温泉街は美しい景観に囲まれた地が多く、空から見てみたい。決して女性の露天風呂を覗きたいわけではない。あっ、まったく関係のない話だが、私の愛する人の次男坊が「翼」くん。大空を舞い、女性風呂を覗くような真似はして欲しくないと願う。ただ、私を抱えて飛んでくれるのは、特別に可。私を温泉街に連れてって~~~


 名古屋は飛ぶことを忘れてしまった鶏の手羽を唐揚げにした料理が有名だ。鶏料理専門店を営んでいた男が、出汁にしか使われることのなかった手羽に着目し、すでに完成されていたタレで味付けをし出されたのが始まりだ。「風来坊」の創始者が頑固なまでにこだわったものが「のれんわけ」で、修行をし、認めたものだけに出店を許すものだ。こうして手羽先の唐揚げは名古屋を中心に広がりを見せていく。


 人気が高まり、唐揚げにタレを塗りスパイスを効かせたこの手羽先料理は多くの店で真似をされ始める。名古屋発祥の手羽先の唐揚げを全国区にしたのも実は元祖ではない。居酒屋修行時代の店舗の隣が「風来坊」で、「串カツ焼き鳥のやまちゃん」をオープンさせた男は風来坊とはまったく関係のない男。やまちゃんの手羽先は、甘みを抑え、よりスパイスを効かせた仕上がりで、人気は二分されていく。私の学生時代のバイト先であるジャズクラブの近くにあり、朝の5時まで営業していた関係でよく訪れていた店だ。


 BGMは赤い鳥の「翼をください」も考えたが、やはりこの曲だ。オリジナルのジミヘンを探したが良い音源が見つからず、このバージョンで。



Santana - Little Wing (Joe Cocker) GUITAR HEAVEN


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、新規の女性客二人組みが現れた。


「いらっしゃいませ、お二人様でよろしいですね。お好きなお席にどうぞ」


 二人はカウンターの中央に座りカクテルを頼んでいた。私は氷を落としたミキサーにジンを45mℓ、ドライベルモットを15mℓ入れステアーし、ミキサーにストレーナーをセットした。続いて、シェイカーに氷を落とし、ジンを30mℓ、ペーパーミントリキュールを10mℓ、パイナップルジュースを10mℓ入れ、シェーク。ミキサーからカクテルグラスに注ぎ、レモンピールを振りかけ、シェーカーからカクテルグラスに注ぎミントチェリーをグラスの淵に添えた。


「ドライ・マティーニとアラウンドザワールドでございます」


 会話から二人は旅行者であり、明日は名古屋に向かってみようと言う。行程を決めずに思いつきで行動をしているようだ。旅の理想系である。明確な目的があり、目的を達成することを最優先した場合、道中は単に移動と化し、さほど大きな意味は持たない。明確な目標を定めない場合は、道中にこそ多くの出会いがあり、新たな目標設定をする機会となる。


 そして二人は名古屋で手羽先を食べたいと話している。私は店を訪ねられ名古屋の手羽先の事情を話していた。


「どちらが美味しいかは好みがあるでしょうから私には何とも言えないのですが、『風来坊』は他県にものれんわけで展開はしていますがあくまでも数は少ないです。一方の『世界の山ちゃん』はもう至る所に出店されもう名古屋を楽しむ意味はないと思いますよ。単に手羽先を求めるならどちらでも構わないし、こと名古屋での手羽先を楽しむのであれば、元祖でもあり風来坊ではないでしょうかね」


 世界の山ちゃんは名の通り名古屋に留まることなく世界に目を向け、フランチャイズ展開をする企業に上り詰めた。手羽先を全国区にした功績も大きい。飛ぶことを忘れた翼で世界に飛び立った。


 元祖である風来坊はのれんわけのみで店舗展開をし、飛ぶことをしない。企業としての戦略であり、どちらが正しいかではない。ただ、金を出せば営業できる店舗と、金を出しても営業させてもらえない店舗の価値は大きく違うと思う。私の個人的な意見として、名古屋の手羽先は風来坊だと感じる。

(写真は頂き物です)


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