紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 顔1

 私は野口英世の大ファンなのであろうか、、、いつも彼の顔写真付きの紙切れを大切に持ち歩いている。細菌学者より、どちらかと言えば『天は人の上に人をつくらず 人の下に人をつくらず』と説いた教育者が本当は好きだ。
「私はあなた様を尊敬致しております。どうぞ、いつまでも私の側でゆっくりなさってくださいね」
 私の願いは聞き入られることはなく、彼はすぐに旅立ちをしてしまう。彼とはどうも縁がないようだ。開店準備でレジにつり銭を入れるが、用意するのは1000円札と500円、100円の硬貨のみで、つり銭に一万円札は必要もない。


 BGMに“Barrett Strong”の“Money”を選んだ。モータウン・レーベルの最初のヒット曲であり、“The Beatles”がカバーしたことで知る方も多いであろう。



barrett strong ... money [ thats what i want ]


 カラン、カランとドアの呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、クリスティーネが新規の日本人女性を連れて顔を出した。二人はカウンター中央に座り、長い黒髪でスレンダーな美しい女性とブロンドの端整な顔立ちのクリスティネを前に、自然と私のテンションは上がる。落ち着け、私。そして頑張れ。



 クリスティーネが徐にコインを取り出し宙に投げ、左手の甲でコインを受け右手で覆うと日本人女性が「表」と叫んだ。右手を外すと、共に二人が「やったぁ~」と叫び、お互いに顔を見合わせ首を傾げている。判断を委ねられた私は、「表です」と答えた。一見、大きな額面表示側が表と感じるが、日本硬貨は年号表記のある側を裏としている。



「では、フランス・ワインで決まりね」



「どう見てもこっちが裏のような感じ、、、もう」



 二人はフランス・ワインかドイツ・ワインかをコイン・トスで決めたらしい。ワイン・リストがないか女性に尋ねられたが、そこまでの在庫の種類はなく、ある程度の好みを聞き、提案するしかない。ちなみにドイツ・ワインは用意していない。よかった、、、表で。



「ブルゴーニュの白はありますか」



「はい、ブルゴーニュですと、マコン・ヴィラージュで3800円、シャブリで5800円、あとお値段お気になさらなければ、ピュリニー・モンラッシェのレ・ピュセルで23800円ですね」



「じゃあ、シャブリを頂きましょう」



「かしこまりました」



 私はトーションをカウンターに敷き、氷と水を入れたワインクーラーを乗せて、シャブリの瓶を入れ、もう一枚のトーションを筒状にし、ワインクラーの取っ手部分に差込んで用意をした。



「あら、ダニエル・ダンプのシャブリね」



「そうでしたか。大変申し訳ありません、私はさほどワインについての知識がなくて」



「ほら、ここに生産者のお名前が。シャブリ生産者の最高峰のお一人じゃないかしらね」



 ワインのラベルには商品名のみならず多くの情報が詰まっているようだ。顔写真まではないが、しっかりと刻まれた名前から、自信に満ちた誇らしげな生産者の顔がイメージできる。




                                      続く



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