紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

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“Soul bar-IORI” 短編小説 完

『ら~めん処 庵』 ラーメン4

 予約当日、私は早朝から仕込みで大忙しだ。4人で申し合わせ、あっさり系のラーメンに決まり、私はトリガラを一旦茹で上げ、水洗いをして水を張った大きめの寸胴鍋に、ニンジン、玉葱、ねぎ、生姜、ニンニクを合わせて入れ、上から昆布を乗せ火にかけた。完成するスープは10人前のラーメンが出来そうな量だ。


 味は醤油で、こちらも数種の野菜と酒を入れ、醤油ダレを仕込む。具の準備はメンマを塩抜きさせ、半熟のゆで卵を作り、醤油に漬け込み冷蔵庫に寝かせる。鶏肉はオーブンで焼いたものと蒸し鶏を用意する。後はしばらく放置で、映画「たんぽぽ」を観ながらもやしの準備だ。



タンポポ予告編


 何度も観ている映画でストーリーはわかっているが、いつも間にやら物語が変だ。時は江戸であろうか、どこかの城内でラーメンが食べたいと言う我侭な姫に申し付けられ、男がラーメン作りに励んでいる。隣では謎の中国人らしき男と真っ白なひげをたくわえた老人が葵三つ葉が描かれたどんぶりでラーメンを食べている。


「ま~だぁ~」


と、小型の携帯用の扇風機を顔に当てながら厨房を覗く姫。


「姫、もうしばらくお待ちを」


♪はなのワルツ あなたと舞うわ~♪


 姫は歌を唄いながら華麗な舞を見せた後、こうつぶやいた。


「あ~臭っさい なんでこんなに くさいのか 美味香りとは 程遠き香りかな」  



 「臭い」と言う言葉に私はふと立ち上がり、匂いを確認しスープを覗くと丁度頃合で、映画はすでに終っていた。もしかして、また夢かぁ~、、、しかし、これ以上煮込めば失敗で、夢に出て来た姫に助けられたかもしれない。塩抜きしたメンマは取ったばかりのスープと酒、砂糖を入れ火にかけた後、軽く醤油を入れて味を含ませ、蒸し鶏を調理し始めた。焼きは、出来る限り焼き立てを提供したいので、彼女達が飲み始めてからオーブンに入れればよいであろう。



 営業時間に入りしばらく経つと、カラン、カランと呼び鈴が鳴り4人が揃って顔をだした。それぞれに飲み物を提供し、私は水をいっぱいに張った鍋に火をかけ、いつでも出来るように準備を整え、オーブンに鶏肉を入れた。会話はもっぱらラーメンの話だ。



 しばらくすると、カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、二度目の来店の女性と森様が一緒に来店をした。



「あっ、もりッピー、こんばんは」



 男性にあだ名を付けた優子が声をかけた。私は女性の顔を見た瞬間、思わず声を上げそうになってしまった。先日、明日香と映画の話をしていた女性で、その後森様が加わっていた。女性にバーボンのコークハイ、森様にはジャックのロックを頼まれ提供した。しかし、初対面の二人はあの後、、、いや、客の詮索はやめよう。



 バーとは思えない匂いを女性は気にしている。



「こんばんは、先日はどうも、私、明日香って言います。ごめんなさいね、無理やりマスターにラーメン作れって、、、この人が!」



「あら、ラーメン出来るのね、私達も後で頂きましょうか。あっ、私はつづりと申します。宜しくね」



 私の夢に何度も登場したのはこの女性に間違いない。顔はなんとなく猫顔で、名を知ることはないが、偶然にも夢の中で同じような名前であったような気がする。



 先客の女性達はそれぞれおかわりをし、6人組みとなって多くの話題に花を咲かせている。そして優子が口火を切った。



「ねえ、私達はそろそろラーメン頂きますか?一度に6人前は大変そうだし。マスターお願いします、ラーメン4つね」



 沸騰させた鍋に麺を入れ、丼にタレを入れ、熱々のスープを注ぎ、湯切りした麺を入れる。切り分けた具を手早く乗せ、刻みネギを入れて完成だ。



「お待たせ致しました。庵ラーメンでございます」





「お~いい匂いで、美味そうだなぁ~」



 提供されたラーメンを見て、森様が声を出した。



「美味しい!これは味に何か秘密があるんですか?それに具のもやし、芽も根も丁寧に取り除かれて仕込み大変だったでしょ?」



「味は、しょっつるを醤油ダレに隠し味程度に加えています。料理はいかに美味しく召し上がって頂くかで、出来ることを惜しんでは出来ません。『料理は愛』です」



「ねえ、マスター、私達の分も作ってくれないかしら」



「ごめんなさい、ラーメン丼が4つしかありませんので、空いてからで、、、」

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