紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 日本酒2

  日本には多くの発酵調味料があり伝統的に受け継がれてきた。醤油など世界的に見てもこれほど複雑な味を持つ調味料は稀で、世界に誇れるものだと思う。この複雑な味は、時間をかけゆっくりと醸し出される。また、日本酒などの醸造酒も発酵によって造られるが、日本酒造りは他の酒に比べ恐ろしい程の手間隙のかかるものだ。糖があれば簡単に酒は出来るが、米が原料である日本酒は、米の中心にあるでんぷんを糖に変えなければならない。



Wes Montgomery Trio - Days of Wine and Roses


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、優子とクリスティーネが顔を出した。男性の飲む日本酒を見て、二人とも日本酒が飲みたいと言う。



「一杯だけですよ。もうありませんから」



 酒を用意している間に、隣合わせた男性と優子は会釈を交わし、男性から自己紹介をし、優子が答え、それに続きクリスティーネを紹介している。



「森さんね、じゃあ、もりっピーって呼んじゃお」



「・・・・・マスター、天狗舞をもう一杯」



「だめですって、一杯だけのお約束で特別にお出ししただけですから」



「あ~、でも、もう一合残ってるじゃん」



「私の分です!」



「・・・・・じゃ、、、ジャックをロックで」



 優子とクリスティーネに話の経緯を伝え、私は大好きな日本酒について語りだした。日本酒の歴史を辿っていくと面白いのだが、ここでは割愛し戦後から話をしていこう、、、



 戦争中、酒造業も壊滅的な打撃を受け、食糧難からの米不足もあり日本各地に密造酒が出回り多くの死者がでた。また、政府としても闇酒が横行し酒税を得ることができず、合法的に三倍増醸酒が開発される。この三倍増醸清酒(三増酒)とは、工業アルコール他、多くの混ぜ物をし水で薄めて結果的に約3倍の製成酒を得るというものだ。工業アルコールを添加する技術は、焼酎、ウィスキー、ワインにも使われていく。戦後の混乱期であれば致し方ないとも思うが、この三増酒作りは平成18年度まで続けられていた。



「え、ビールだけじゃなくって、自分の国のお酒までむちゃくちゃな作り方をしてたんですか?日本は。それもつい最近まで」



「お恥ずかしい、、、」



 フランスのワインにあるように、クリスティーネの国、ドイツにも自国を代表するビールには厳しい基準が設けられ、日本のビールに疑問を持っていた彼女は日本に対し大きなショックを受けたようだ。



 その後、日本酒にアルコール添加がなくなったのかと言えばNoである。日本酒は古来より、米、米こうじのみで造られてきた伝統ある酒だ。



「普通酒」、、、この名前から何をイメージするであろうか、、、



「本醸造酒」、、、これは、どうであろうか、、、イメージなどは消費者が勝手にすれば良いだけの話で、三増酒のように糖を加えるまではしないが、それぞれにアルコール添加がされる酒である。「吟醸」、「大吟醸」も同じだ。



「このお酒も変なお酒なんですか?」



「いえ、このお酒は混ぜもののない本物で、『純米大吟醸』です」


                                      続く

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