紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 優先席

 店はカウンター内のほぼ中央に作業台があり、必然的に私の立ち位置が決まってしまう。客がどの席に座るかは自由であり、私が決めることではない。ただ、この位置に女性客が座るのと、男が座るのとでは気分が違い、気持ちの入り方で仕事の完成度は大きく変わる、、、女性専用席にするか、立ち位置が移動できるように作業台を増やすか、、、男って生き物は、ほんと馬鹿っ。



Wilton Felder feat. Bobby Womack - Inherit The Wind (Original 1980 Full Length Version)


 BGMは“The Crusaders”のテナー・サクソフォン奏者“Wilton Felder”のソロから、ソウル界の巨匠“Bobby Womack”が歌い上げた“Inherit the wind”を選んだ。私のお姉ちゃん好きは、きっと男の根っこに吹く風を受け継いだのであろう、、、



 カラン、カランとドアの呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、ピアニストの優子が顔を出した。



「いらっしゃいませ。長いこと店を閉めまして申し訳ありませんでした」



「もう~死んじゃったかと思いましたよ!ハーパーロックで」



「・・・・・」



 彩香から庵が営業をしているとメールをもらい顔を出してくれたが、かなりお怒りのようだ。旅の土産話を終える頃には笑顔も見え、店を閉めていた怒りは治まったようだが、彼女には新たな怒りがこみ上げていた。電車通勤している優子は、今日の出勤途中での出来事を話し出した。



「もう、くそガキ女子高生にあったまきちゃってさ、、、



 通勤は二区間だけでいつも電車の中で座ることは無く立ったままだと言う。近くの8席ある優先席には4人の女子高生がバッグを座席に乗せ占有していたそうで、同じ駅から老夫婦が乗り合わせた。座席に空きがなく老夫婦はドアにもたれ立ったままなのだが、女子高生達は席を譲るどころか、バックすらどける素振りもない。見かねた優子はバッグを網棚か膝上に載せるか、席を譲るように催促したようだが無視をされ、優子が降りる際には女子高生から罵声を浴びせられたと言う。



「それは嫌な思いをしてしまいましたね。当たり前と思えることが、どんどん当たり前ではなくなってしまう。残念なことです」



「クリスティーネも言ってたけど、どうして日本人はルールが守れないんでしょうね」



 優先席の定義は、強制力は持たずあくまでも任意で、運営会社だけではなく、国土交通省の見解も任意である。座っている者が譲りたくなければ譲る必要はない。ルールは規定、規則であり、この場合はマナー(礼儀)であったりモラル(道徳)が適切であろう。ルールとして考えれば優子に非が出てしまう。本当にこれでいいのだろうか?この国は。



 札幌の地下鉄に見られるように優先席を「専用席」とすることや、阪急電鉄のように優先席を廃止し、全車両の全座席を優先席とし乗客のモラル向上を呼びかけるなども必要なのであろうが、阪急においては優先席が再度設けられていることを考えれば、あまり効果がなかったのであろう。



 世界的に見ると優先席が存在しているケースは少なく、優先席を用意している国は、台湾、中国、香港、タイなどアジア圏が多い。もちろん日本もだ。欧米では、一部の地下鉄、バスに見られるが、社会通念上のモラルとして弱者に対しては譲るという考え方が浸透しているから必要のないものなのであろう。先進国では席を譲ることなど決して「良いこと」として見ていない。当たり前のこと。



 そもそも優先席の存在が、日本社会が未熟であることの証だ。



 若い健常者が、年配者や身体に不自由がある方、小さなお子を抱える方に自然と席を譲れる世の中であれば、一見健常者に見える方が座っていても、何かしらの理由があってのことだと判断ができ、トラブルもなくなるであろう。



 優子が直面した女子高生達に配慮が見られなかったのは残念であるが、これはすべて私達大人の責任だ。



 






 


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