紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 女と男2

 私の住む四日市は、街を外れれば多くの田畑がありのどかな面をみせる。店へと向かう途中、自転車を漕ぎながら稲の刈り取られた田んぼを見ると、懐かしい思い出が頭を過ぎる。幼少の頃は、こんなところで凧揚げをして走り回ったものだ。半ズボンを穿いてるやつもいた。もうそんな遊びをしている子供を見かけることはない。


 店に着き準備をするが、果たして客は来るのであろうか。喧嘩中の彼女はこの日実家に行くと私に伝えていたので、同じ時間を過ごす予定はなかった。昨夜連絡をして謝っておけば、今日一日の気分が随分と晴れやかであったであろう。馬鹿な私、、、


 BGMにこんな曲かけてみた。ポリシーのない店だこと、、、



男と女のラブゲーム 葵司朗&日野美歌


 カラン、カランとドアベルが鳴り、客の来店を知らせると彩香と明日香が顔をだした。すっかり打ち解け仲良くなれたようで、彩香が張り紙を見て、明日香を誘ったと言う。さっぱりとしたカクテルが飲みたいと言う明日香に、タンブラーに氷を落とし、ジンを45mℓ入れ、ライム二分の一個を絞りながらグラスに落とし、ソーダで満たし軽くステアーした。彩香はいつものようにジンのロックを頼んでいた。


「お待たせ致しました。ジンリッキーとジン・ロックです」


「何?この曲。ソウル・バー辞めてカラオケ・バーに鞍替えするんですか?」


「いえいえ、昨日から女性と男について考えてたら、こんな曲に」


 彩香の問いに答えた私の顔を見ながら、明日香は、「男は馬鹿」とつぶやき、以前一緒に来店した彼氏とはその後別れたと話した。


 女性同士の会話は活発だ。話の内容を聞いていると、話題は多岐に及び、結論など出すことはなく次から次へと変わっていく。結論を出さずに話をする意味があるのであろうか?男は着地点に重きを置くことが多い。よくこれほど話せるものだと感心する。私は仕事柄、よく話をするが、自分の相方と仕事でするほど会話を持つことはない。近所の主婦達も数人が集まりいつまでも話している姿を見るし、ランチタイムの飲食店では11時に店に訪れ、15時まで滞在する女性グループが多いと話を聞く。


 結論を出してしまえばその話題が続くことはなく、敢えて出さないのかもしれない。また、音楽の話をしていたかと思うと、何の前触れもなく、「そのピアス素敵ね」と言葉を発し、話題が装飾に移るのかと思えば、また音楽の話に戻っている。音楽の話が続くのかと思ったが、今は、BGMから飲食店の話に移り、イケ面店員の話をしている。数分前に話題に上った飲食店の料理の話は、もう遠い過去の話のようだ。なんとも不思議である。


 ここで見逃してはいけないのは、多くの話題の中に、必ず相手を褒める言葉が随所に現れる。先ほどのピアスの件もそうで、今は彩香が明日香の服のコーディネイトを褒めている。互いに褒め合うことを欠かすことはないようだ。


 女性には女性の気持ちがよく理解できるであろう。褒められることに至高の喜びを感じるのかもしれない。男は他の男との競争に打ち勝つことが自己の生命の存続に係わり、自分の遺伝子を残すことも可能となる。相手を褒めている余裕はなく、蹴落とすのみだ。男は人を褒める事が苦手なのかもしれない。


 女性と揉め事をなくし仲良くするには、話をよく聞き、褒めるべきことはきちんと褒め、怠ってはいけないのかもしれない。わざわざ口にしなくともわかってくれているであろうと思うのは、男の勝手な解釈だ。照れることなく相手を褒めよう、言葉に出して、そして感謝の気持ちも伝えることも大切かもしれない。


「今日のお二人は、お召し物も素敵で、よく似合ってますよ」


「え?何ですかいきなり。何か下心でもあるんですか?」


「・・・・・」


                                      続く

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