紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” K祭 目的

 
 クワンザ五日目を迎えた。アフリカ系アメリカ人の立場ではなく、クワンザの七つの原理は自分達に置き換えても考えるべきことが多くある。まだまだ数人に認識されただけであるが、より多くの方に考えて欲しい事だ。


 クワンザの思想は、政治思想である「自由主義」における「共同体主義」とでも言うのであろうか。日本において自由主義はすでに行き詰まりの感がある。より良い日本にするためには「共同体」より、「協同体」的な、心と力を併せ持ち、互いに協力する精神面の欠如を補うことが必要なのかもしれない。とかく日本人は自由と好き勝手を取り違え、心を欠いてきた。今日のお題は「目的」だ。


 BGMに、やはり“Marvin Gaye”を選び、ターンテーブルに乗せ針を落とした。

Marvin Gaye - Right On
 カラン、カランとドアベルが鳴り“Joyous Kwanzaa”の声と共に彩香が姿を見せた。ジンロックを頼まれ提供した私は、五日目のロウソクに火を灯しクワンザのスタートを告げた。


「目的かぁ~、黒人社会に於いては差別されることがなくなったりとか、また、逆に差別をする側に回らないとか明確ですよね。あっ、黒人って言うのは差別用語ですか?」


「う~ん、微妙ですね。彼らは自分達で“Black man”と言うこともあるし、私が差別用語とは断言出来ませんけど、例えば彩香さんが海外に行ったとき、『そこの黄色の人』とか色で言われた場合どう感じます?服の色を言われる場合には気にしませんけど、肌の色を言われれば嫌な気持ちになるのではないでしょうか。受け取る側にも様々な感情がありますので、正解はないのでしょうけど、言った側に意識がなくても、受け取る側が差別されたと思ったらそれは差別と認識されます。先ずは自分が嫌かも、と思うことをしない、発言しないことですね」


「思いやりですね」


「そう、その気持ちがあれば多くの差別問題は解消しますよ。人が人である以上、好き、嫌いは当然で誰もが差別意識を持っているはずです。それをいちいち口にしないってことですね。ましてや人を傷つけることがあっては許されません。差別、差別問題がなくなるためにどう行動するかですよね」


「自分はしないと心に決め、見かけたら見てみぬ振りをするのではなく、間違いを正せるかも大切ですね」


「そうですね、心無い人に啓蒙することは大切ですけど大変なことですよね。常識を欠いた方がするわけですから、なかなか理解できない場合が多いでしょうね。それに差別感情を表に出す人は、何か自分で処理できない大きなことを抱えている人が多いのも事実です。差別することが暗黙の快楽になってしまっているんですよ」


「差別することで憂さ晴らしですか、差別する側の目的の一つになってるんですね。悲しい現実です」


「愛が足りないんですよ。愛されたことがないから、人を愛せない。差別行動を集団心理が助けることもあるんでしょうが、その集団は愛で結束されていませんからね」


「難しい問題ですね。ねえ、マスター、目的のない旅とか、あてのない旅って素敵だと思いません?してみたいなぁ~そんな旅」


「・・・それを目的って言うんじゃないでしょうかね。目標であったり目的地を定めず自由気ままな旅を楽しむことが『目的』になってますよ」


「あっ、そうか、それが目的ですね。目的のない旅ってあり得ないことですね」


「ニュアンス的には理解できますよ、こう何か型に捉われない、形のない自由な旅を形容したんでしょうけど、しっかりと型にはめてしまってますね。でもよろしいんじゃないですか、自由気ままな旅も。いろいろな出会いがあって感動も多いかと思います」


 カラン、カランと呼び鈴が鳴って、優子が姿を現した。いつものようにハーパーのロックを頼み、今日のテーマを彩香に尋ね話し始めたようだ。


「目的ね、なるほど。私の目的ってなんだろう~」


「仕事の?人生の?」


「う~ん、仕事かな、何かこうラウンジとかではなくって、小さなライブ・ハウスでいいんだけどそんなとこで演奏したいな。ラウンジとかなら正直誰でもいいって言うかさ、たまたま店に行ったら私が演奏してたみたいな感じじゃん」


「そっかぁ~、ねえ、ねえ、マスター今の優子の言うことは目的なの?」


「う~ん、目標ですかね。着地点、ゴールですよね。ライブ・パブで演奏することが目標で、目的は、例えばもっと稼ぎたいだとか、自己表現をしたいからではないでしょうかね」


 日本は東京五輪に向け、多くが変わるであろう。目的が五輪開催のための表面的なもので、円滑な五輪開催が目標で終っては意味がない。長期のスパンで捉え、国が、政治家がそして国民が結束しより良い日本を、世界に誇れる日本を構築していくことを望みたいものだ。

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