紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” K祭 自己決定

 
 クワンザ二日目の夜だ。昨夜の嵐を思わせる風は止み静かな夕時だ。BGMは昨夜に続き“Marvin Gaye”から“Tammi Terrell”とのデュエットで“Ain't no mountain enough”を選んだ。二日目のロウソクに火を灯そうと祭壇の前に立ったが、クワンザの期間中通うと言った客を待ってみよう。



Ain't No Mountain High Enough (extra HQ) - Marvin Gaye & Tammi Terrell


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、新規の30代前半と思われる女性客が一人でやって来た。カウンターの隅でも中央でもない席を選び腰を降ろし、飲み物を訪ねるとジン・トニックを頼んだ。


 氷を落としたタンブラーにジンを45mℓ入れ、トニック・ウォーターとソーダの半々で満たし軽くステアーしグラスの淵にカットレモンを添えた。通常、トニックだけで満たすのが一般的であるが、私のレシピはソーダを加える。チャームのガーリック・トーストと提供した。


 一口飲み、「まろやかぁ~」とつぶやいた女性に私は微笑みを返していた。国産のトニックは添加物で代用された紛い物であり論外だが、トニックは数種の薬草を用い造られ、解熱剤に用いられる「キニーネ」が現在は微量ではあるが含まれる。天然由来の薬だが摂取は控え目がよいであろう。薬はすべて毒と成る。


 カラン、カランとドアベルが鳴り、約束通りジン好きな彼女が現れ、ジンのロックを頼んだ。飲み物とチャームを出し、私は二日目のロウソクに火を灯した。


「待っててくれたんですね、ありがとうございます。今日のお題は何んでしたっけ?」


「今日は『自己決定』ですね」


 彼女は、今まで多くのことを自己の意思とは関係なく選んできたと話す。私も往々にして同じであり、自己の意思ではなく「流れ」に身を任せてきたことが多い。悔いることはないが、今、振り返れば多くの選択肢があったはずだ。


 最初に訪れた客が会話に興味を持ったようで、会話に加わり、話が進む中、自己を語りだし、家庭があり子供二人を儲けたと話す。


「私は自由に生き、自由な恋愛を楽しむわ。家事もこなして誰にも迷惑かけていないんだから」


 恋愛の相手にも家庭があるようだ。


 彼女の言う「誰にも迷惑をかけていない」とは、思い上がりであり、自己満足以外の何物でもない。迷惑をかけていることが見えていないだけだ。知られなければ何をしても良いものなのか。不倫などが持てはやされ、その行為を自慢げに語る愚かな者まで多く存在している。


 子供が成長し人格が形成されるまで、親の影響は最も大きいであろう。将来犯罪に手を出す人の多くは、家庭環境に問題があるとされる。自己の欲にまみれ、十分な愛情を注がずに子供が育ち、多くの人に迷惑を掛けることがあることも忘れてはいけないことだ。木をしっかりと見て、森の全体も見なければいけない。


 1800年代に書かれた「自由論」に、「個人は、他者に迷惑をかけない限り、何をしても自由である」と責任を伴う自由が提唱され、その後、自分のいき方や生活のついて自由に決定する権利が認められてきた。


 日本に於いても憲法で「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とされる。


 自己の意思に基づき自由に決めることは権利として守られるが、日本人の自由とは責任を伴わない「好き勝手」と解釈する方が多いようだ。


 今日、取り上げた“Tammi Terrell”は自己が決めたことに於いても、他人が犯したことに於いても多くの不幸を味わった女性だ。“Marvin Gaye”と出会い新たな境地を切り開いたが、24歳の若さでこの世を去ってしまった。


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