紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 似て非なる国3

 
 「最初にお話したように、アイヌ民族は北海道、千島列島に続縄文時代の頃から居住し文化を築いていたんですね。サケ、マスが遡上する川周辺に集落を築いたようです。北海道の地名に『別』の字を良く見ますよね、これはアイヌ語で『ペツ』、川を意味します。札幌もアイヌ語の『サットポロ』、乾燥した広い土地の意味です」


「川が生活にとって不可欠なものだったんですね」


「そうでしょうね、遡上するサケ、マスは貴重な食料でしょうしね。そして日本は古来658年(飛鳥期)より北海道に住む、当時は蝦夷ですね、アイヌ民族に『まつろわぬ民』として征伐を行ってきたんです」


「まつろわぬってどう言う意味ですか?」


「服従しないと言う意味です。15世紀に入って、奥羽地方北部の諸豪族が北海道に移り住みアイヌと交易を始めるのですが、交易とは名ばかりのもので、豪族は脅し、騙し搾取した物を本州に運び利益を上げていくわけです」


「ひどいですね、奪ったものを売って利益を上げるなんて」


「ほんと日本人はひどいことをします。こうした仕打ちに抗争が起き始め、1456年室町時代ですね、アイヌの若者が殺害されたことをきっかけに、翌年、指導者コシャマインに率いられ戦いを挑み、ほぼ勝利を収めるのですが、停戦協定の中コシャマインと息子は殺害をされてしまいます」


「停戦中にですかぁ~、ここでも騙してるわけですね」


「この戦いは90年以上に及び、以降、それぞれの生活様式によって確保した生産物を交易で交換したりしていたんですけど、江戸時代に入って武力を背景にした松前藩による不平等な交易でアイヌは経済的な不利益を被って、和人、日本人のことですね、和人との関係が増える中で伝染病が広がり、民族としての衰退を招いてしまうんです」


「武器で脅し不平等な交易を成立させたんですね」


「はい。松前藩は異民族として差別、虐待をし、若い男は年に数ヶ月も強制労働に従事されたり、多くの村が解体されて強制移住もさせられたようです。そして公式な政策で、アイヌ民族の女性は松前藩の漁民や役人の性奴隷です」


「とんでもない、、、」


「交易も和人側の言い値での取引で、文句を言うアイヌは切り捨て御免です。その上、反乱の兆しがあるとして村を焼き払われたそうです」


「なんて勝手な」


「日本は江戸の末期、アメリカと不平等条約を結ばされますが、自分達がしてきたことを思えば遥かに軽いものですよ。学校でもこの条約は不平等であることを強調して教えられましたが、教科書にどれだけアイヌ民族の方の記述があったのか。それが日本の教育なんです」


「日本は自分達の負には触れない教育なんですね。なんとなく日本がわかってきました」


「地方分権の時代で幕府は関係なく藩の責任なのですが、やはりきちんと教えるべきことだと思いますね。自国で起こったことですからね。自分達がしてきたことは、謙虚な反省がなければ必ず返ってくるものです。『たら、れば』の話はあまり意味がないのですが、北朝鮮の拉致が長い間、問題となっていますよね。関係家族、当事者にかける言葉も見当たらないほど悲しい出来事です。しかし、日本は秀吉の時代から多くの朝鮮の方を拉致してきています。謙虚な反省がなければ自分達の行いは返されるんですよ。決して北朝鮮の拉致は許されるべきことではありませんが、日本に反省なく差別があるようでは正義などありません」


「秀吉の『朝鮮征伐』ですね」


「あの、『征伐』とはどう言う意味ですか?」


「辞書を引いてみましょうか。征伐とは、『反逆者や悪人などを攻め撃つこと』とあります」


「朝鮮は当時、テロ国家だったのですか?」


「いいえ。正式には2度に亘って行われた征伐は、それぞれ年号を取って、『文禄』、『慶長』の『役』(えき)と呼ばれるのですが、役は『戦争』です。ただ、今はどうなっているか知りませんが、『征伐』と教えられています。征伐の理由は、服属を強要して拒まれたからです」


「日本こそテロ国家です!」


「そうおっしゃられても何も言い返すことは出来ません」


「ただ、もう昔の話で、、、」


「そうですね、遠い昔の話ですが、私達日本人がその事実を知り、謙虚に反省してきたかが問題だと思います。謙虚に反省していれば、アジア蔑視の考えや差別はとっくになくなっています」


「ドイツと日本の違いです」


「そうか~、、、それで、武家統治が終って明治維新を迎え、アイヌの方は解放されたのですか?」


「とんでもありません。アイヌの方々の人権が認められたのはここ20年ほどのことです。明治以降は政府、すべては日本国家、日本国民の責任です」
                                      続く

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