紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 38%2

「君、誰がストレートでくれと言った。水割りにしてくれ」「私もだ」


「もし、お飲み頂き、喉が焼けるようでしたら、お水をご用意いたしましたので、後を追うようにお飲み頂ければ」


「面倒な男だな、君は。水割りにしろ!」


「では、今回だけお出ししたもので作らさせて頂きます。追加も含め以後はお断りさせて頂きますので」


 酒はあくまで趣向品であり、飲み方も個人の自由であるが、酒に対しても、心を込めて仕込んだ職人に対しても失礼だ。二度と御免だ。味を崩してまで国産に拘るのか、ただ、高い酒をありがたがって飲むのかは私にはわからない。山崎の18年は、希望小売価格の約倍の値段で流通している。異常な世界だ。



Ray Charles - Feel So Bad - LP Version


 カラン、カランとドアベルが鳴り、仕事を終えた優子の来店だ。いつもの席が使われ少し遠目の席を選んで腰を降ろした。


「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがいたしましょうか?」


「ターキーをロックで下さい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


「ねえ、マスター?マスターは食材は国産に拘る方?」


「お待たせ致しました。そうですね、日本が決して安全とは思っていませんけど、出来る限りは国産を選ぶようにはしてますよ。安いからって輸入品を選ぶことはせず、現状として国産品で賄えないものは輸入品を選ぶぐらいでしょうかね」


「なんかテレビ見てたらすごいの見ちゃって。あ~もう買えない、みたいな」


「モラル的なことでしょうかね。衛生管理に於いては日本のレベルは高いでしょう。そう感じたなら、国産品を選べば良いだけの話ですよ。ただ、日本の食糧自給率はカロリーベースで38%しかありませんので、何かしらの輸入品は口にすることになるでしょうね」


「食料自給率って昔からそんなに低いんですか?」


「いえいえ、当然昔は100%ですよ。海外から流通させる技術もなければ、その必要もなかったわけですから。今は海産物も54%、約半数が輸入品ですね。私が生まれた翌年の昭和40年には、まだ海産物は110%あったそうです。過剰分は輸出です」


「何でそんなに下がってしまったんですかね」


「政治の問題が大きいでしょうね、工業製品を売る代わりに食料品を買う。正しい政策では決してないと思いますよ。それで大資本が安い商品に飛びついたことでしょうね」


「ですよね、食べることが一番大切なのに」


「その通りですよね。一度崩してしまったものを元通りにするには、とてつもなく長い年月が掛かるでしょう。それに、一次産業にはもう誰も就きたがらない。生活は苦しい上、過酷な労働ですから、労働に値する収益がなければ誰もしません。農業に従事される方の平均年齢は60歳以上です」


「他の国も同じなんでしょうかね」


「欧米は日本みたいに、目先の利益で政策を行うような国じゃありませんよ。自国の食料生産はきっちりと守って、保護してますよ。工業製品にしたって、年間の生産予定を守りそれ以上生産しませんでしたからね。すべて環境と従業員に対する思いからですよ。日本はそこに工場をフル稼働させ、どんどん売り込みを掛けて崩して行きましたよね。野生動物も生きるのに必要以上の獲物を捕りません。世界の均衡は保たれていたのですが、日本が多くを崩していきました。野蛮人と呼ばれても致し方ないですよ」


「工業で世界侵略するようなもんですね」


「いや、まったくその通りですよ、世界侵略です。その結果、食料自給率は38%で一次産業は壊滅状態、大気、水質汚染が広まり、自然は壊れ、人も壊てしまいますよ」


「工業製品を売った代償に食料の輸入が多くなったわけかぁ~」


「日本は人口が減少していますけど、世界的には増えています。異常気象が世界的に広がる中、この先安定供給が望めるか不明ですから、海外に頼っていては心もとないですよね」


「世界的な食料不足が起きたら怖いですね、日本。自国ではもう国民のすべての食料は賄えないわけですから、海外が売ってくれなければ、餓死するしかないですよね」


「実際に食料危機が来る確率は低いでしょうけど、ゼロではありませんからね。次世代はどうなることやら。食料に重きを置かない政策は人の心、身体を壊していきます。それが私は一番怖いですね」
                                       続く

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