紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 38%1


 店で使う魚介類の買出しに駅前のデパートを覗いた。店で使う魚介類は、今のところタコとスモーク・サーモンだ。購入したボイルタコはモロッコ産、スモーク・サーモンはキング・サーモンを使用したアラスカ産だ。生鮮も含め多くの輸入品が陳列されている。


 生鮮の並ぶ棚で不思議な物を目にした。「トラウトサーモン」とラベルが貼られている。一見、なにか特別なサケのようにも感じる。鮭の英語表記の“salmon”はよく知られているが、“trout”は鱒であり、マスサケ?キング・サーモンも日本名は「マスノスケ」である。


 日本では、古来からサケの生食いはご法度とされてきた。生食が可能なものは一度凍らせた「ルイベ」だけであろう。ところが、今では回転寿司で大人気のネタが生食のサーモンだ。このノルウェイ産トラウトサーモンも刺身用と表記されている。


 サケ・マスを取り巻く環境があまりにも複雑で、私にはお手上げだ。ただ、欲のない古来からの言い伝えを私は信じたい。金のためならなんでもするのが今の人間だ。


 店に戻り開店だ。BGMにR&B、ジャズの名門レーベルであるアトランティックを牽引したレイ・チャールズを選んだ。アトランティックはサケの名前にも付けられている。



RAY CHARLES "I Can't Stop Loving You"


 カラン、カランとドアベルが鳴り客の来店を知らせた。男性二人組みの40代サラリーマンであろう。気に入ってくれ常連になってくれれば嬉しいことだ。


「いらっしゃいませ。お二人様ですね、お好きなお席にどうぞ」


《チェっ!》私の前には座るなと願いを込めたが、届くことはなかった。


「お飲み物はいかがいたしましょうか」


「とりあえずビールをくれ」「私も」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 タンブラーをセットし、バドの栓を開けチャームを添えて提供した。男性達は大手の工業製品を製造するメーカーに勤めているようだ。聞きたくもない会話が耳に入ってくる。


《大企業に勤めるこの方達は、自分も大きい人間であると勘違いするらしい。確かにお腹周りはでかいなぁ~、やだやだ》
《企業戦士ね~、そんなに戦いが好きなら傭兵として紛争地帯に行きゃいいのに》
《何?一次産業など日本から消えてもいいだと、、、馬鹿なことを》
《おっさんの自慢話聞いてないで、素敵なお姉様と話がしたい。あ~あ》


「君、ウィスキーをもらおうか。国産はあるのか?」


「国産ウィスキーですと山崎の18年をご用意しております」


「いい酒があるじゃないか、それを二つもらおう」


「かしこまりました。しばらくお待ちください」


 この手の酒を注文される方に飲み方を聞くことはしない。貴重な山崎18年物を水割りやハイボールで飲まれてはたまったものではない。ウィスキーの魅力を最大に楽しむには、せめて同量の水で割る「トワイスアップ」までであろう。氷はむろんいらない。指定がなければストレートで提供するのが酒に対する思いやりだ。割るならそれに適した酒はいくらでもある。 


 ストレート・グラスに30mℓを注ぎ、チェイサーも併せ提供した。


                                      続く

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