紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 半端


 繁華街を抜け幹線道路に出ると、歩道がある。私は自転車で歩道を走ることは普段なく、車に行く手を妨げられるときぐらいだ。街では歩道を走る自転車がほとんどで、歩行者との接触も多い。


 本来、車両に当たる自転車は車道走行が基本だが、車道を走る自転車は、車から見れば「邪魔」であろう。行政の「自転車で一部の歩道も走行可」の決定が、多くの悲劇を生んでいる。


 自分の引き出しの少なさを悲しく思うが、BGMは店のコンセプトとまったく関係ない“Queen”を選んだ。ハード・ロックと呼ばれるカテゴリーはあまり好きではないが、このバンドは別物だ。歌詞は面白く、意味深いものがある。解釈は個人の自由であり、私はこの曲から「人の言うことなど、どうでもいい。私は自転車を選んだ」とメッセージを受け取った。


 ちなみに「面白い」は、愉快で楽しいことの意味合いで使われることが多いようだが、本来意味するところは、「満足できる内容で、心ひかれる」ことであり、悲しい物語を面白いと表現することは間違いではない。


(動画の一部に女性の裸体が映りますので、不快な方は再生をご遠慮下さい)



Queen - Bicycle Race


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、ピアニスト優子の友人でクロスバイク乗りの女性だ。


「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがなさいますか?」


「へぇ~カクテルに目覚めちゃいました。後で私だけのカクテルを頂くとして、今日の服はオレンジですよ~」


「かしこまりました。お作り致しますね」


 氷を入れたシェーカーにジンを30mℓ、アプリコット・ブランデーを15mℓ、オレンジ・ジュースを15mℓ入れてシェークし、カクテルグラスに注いだ。


「お待たせ致しました。『パラダイス』です」


「う~ん、このパラダイスも美味しい。不思議な味ですね、オレンジではなくって」


「オレンジと杏を合わせると、何か新種のフルーツのような感じですね」


「ほんと、新しいフルーツの味。ねえ、マスターも自転車乗りますよね。今日、歩道で自転車と歩行者の事故の後を通りかかったんですけど、なんか嫌な感じ。自転車のおばさんがもうすごい勢いで怒ってるんですよね、相手の歩行者の女子高校生に」


「悲しいことですね、それは。人として、同じ自転車乗りとして恥ずかしいですね」


「ですよね。どちらに非があるのかわりませんけど、怒ったところで事故の前に戻ることはできませんから、どう対処するかですよね」


「おっしゃる通りですけど、事故の情況は関係なく、非は100%自転車にあります。例え歩行者がふざけていても、走行してる自転車と歩行者が接触すれば自転車に非があります」 


「え、そうなんですか?」


「自転車は本来車両ですから、車道走行ですよね。歩道を走るには許可されている歩道と、歩行者の最優先が絶対条件です。危険があれば、自転車を降りて押すしかありません。ですから自転車が走行していれば100%、いかなる情況でも自転車に非があります」


「最優先はもちろんですね、弱者優先が大切ですから」


「そうです。より強いものが弱者を優先して均衡が保たれるのです」


「でも自転車は車道が危険だから、仕方なく歩道を走ってる人も多いですよね」


「はい、今の日本の環境は、自転車にとって辛い立場ですね。早急の改善が必要です。ただ、自転車が歩道上で歩行者をしっかりと守って、初めて車道で車から守られるべき存在になるとも思うんです。歩行者を守ることが出来ず、自己の主張だけしても誰も相手にしてくれません。歩道上でベルを鳴らし、歩行者を退ける行為など、あってはならないのです」


「私は、ほぼ車道を走りますけど、やはり交通量の多いところは歩道を走ってしまいますね」


「はい、それでよいのですよ。ただ、歩道を走る場合、何があっても歩行者優先を忘れてはいけないことです」


 自転車の安全を確保するがのごとく、歩道上での走行が許される日本だが、快適な車の走行を邪魔する者を車道から排除したに過ぎない。こうして日本における自転車の多くは、車道を走る速度も出せない自転車に姿を変えていった。すべてが曖昧な日本の行政の指導、決定に、自転車を活用する者の責任も薄れてしまう。存在、立場を明確にすることによって、初めて責任の意識が生まれるのだ。


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