紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 水 


 雨の日は行動も億劫で憂鬱であるが、雨ほど大切な物はなく、私達に潤いをもたらしてくれる。降雨量が減れば深刻な水不足にも陥り、農作物に与える影響も大きい。雨は少ないと喜ばれ、それが原因で野菜価格が高騰すれば恨まれる。人の思いは複雑だ。


 日本の国土は多くの森林に囲まれ、雨は落ち葉が堆積した腐葉土に染み込み、地下水脈に辿り着く。そして80~100年ほどの年月をかけ不純物が濾過され、湧き水となり地表に顔を出す。素晴らしく美味しい水だ。


 日本には水で表現した言葉も多く、日本文化と深い結び付を持ってきたことは容易に想像が出来る。「水いらず」「水くさい」「水掛け論」「水をさす」など、これらの言葉は日本独自のもので、英語で表したところで言葉の持つ風合いは生まれてこない。


 日本の水はカルシウム、マグネシウム、鉄などの鉱物を多く含まない軟水だ。雑味がないため、飲んだときに水本来の「甘さ」も感じることが出来る。軟水だからこそ、日本酒も出来上がり、鍋料理をなど煮込み料理などにも適している。米の炊き上がりも軟水であることが絶対条件であろう。


 日本の水は世界に誇れる素晴らしい水である。



Muddy Waters - Hoochie Coochie Man (Live)


 BGMには“Muddy Waters”を選んだ。バンド形式のブルースに発展をした「シカゴ・ブールス」に大きな影響を与え、「シカゴ・ブルースの父」と称されるアーチストだ。母は誰か知らない。名前に「ウォーター」とあるが、この水は飲まない方がたぶん良いと思う、、、泥のような水。「マッド・クラブ」、「泥んこ遊びの同好会“club”」ではたぶんないと思うが、素敵なお姉様達と泥んこ遊びもしてみたい、、、馬鹿っ。きっと“mud crab”泥蟹だ。


 カラン、カランとドアベルが鳴った。新規の若いカップルだ。新規の客は増えるが、なかなかリピートしない、頑張れ!私。


「いらっしゃいませ、お二人様ですね。お好きなお席にどうぞ」


 カウンター中央に腰を降ろそうとした女性を、男が手招きし隅に腰を降ろした。《ちぇっ!》


「お飲み物はいかがなさいますか?」


「私はカルア・ミルク下さい」「僕は車なんでソフト・ドリンク下さい」


「ソフト・ドリンクですと、ジュース類、コーヒー、ペリエがございますが、いかが致しましょうか?」


「じゃ、ペリエで」


「かしこまりました」


 タンブラーに氷を落とし、コーヒーリキュールを45mℓ入れミルクで満たし軽くステアーする。そして、氷を入れたゴブレットにカットレモンを添え、ペリエは瓶のまま栓を開け提供した。女性客以外デコレーションはしたくないが、ペリエにレモンがなければ飲めないであろう、仕方ない。


 二人はグラスを合わせ飲みものを口にすると、女性は微笑み、男の顔は歪んだ。心配する女性が声を掛けるが、男は何もない素振りを見せている。笑える。男はその後ペリエを口にせず、女性が一口飲み声を上げた。


「うあ、不味っ!何これ」


 ヨーロッパの水の多くは無機物を多く含む硬水である。軟水に慣れ親しんだ日本人の味覚に合うことはない。


 日本は世界有数の美味しい水の産地だ。私の住む地域は水源に恵まれ、水道水の美味しさも申し分ないものだが、都心部では無理であろう。集合住宅で貯水される場合もあり、この場合の水道水は最悪だ。多くの日本家庭でも水を買う方が増えているが、致し方ないことなのであろうか。私達世代が犯した罪を償い、美味しい水を取り戻し後世に残すことが出来るなら、どれほど誇れることだろうか。


 日本においてヨーロッパの硬水を有難く飲む方は、、、好き嫌いの問題なのか、味オンチなのか、ブランドを有難がるのかは、私にはわからない。

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