紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 思い出

「いらっしゃいませ」


「早すぎちゃいましたか?」


「大丈夫ですよ。今、DVD探してますから少し音待ってくださいね。お飲み物は?」


「ビーフィータージンをロックでお願いします。全種制覇ですね、これで」


「まだまだ。隠してますけど、ジン発祥の地オランダのジンがありますから」


「え~そうなんだ。じゃあ次に頂こっと」


 DVDをセットし、ジンを注いだ。


「何か続けて嫌な話をしてしまったので、昨日かけてたラリーとの思い出でもお話しましょうかね」



 1985年7月、まだ学生だった私はバイトをさぼり、友人を連れ立って名古屋城深い丸広場にいた。1st“The Crusaders with Larry Graham”2nd“Mils Davis”が出演する“Live Under The Sky”名古屋公演の会場だ。



The Crusaders w/Stanley Clarke & Larry Graham - Put It Where You Want It.flv


 楽しみにしていた時間はあっと言う間に過ぎてしまい、クルセイダーズのセットが終った。野外公演の為、移動に使われているであろう観光バスが、そのままバンド控え室として使われており、ステージを降りたメンバーは次々とバスに姿を消して行く。


 ロックバンドのコンサートと違い、警備員はそれほど配置されておらず、一本のロープで客席が仕切られているだけだ。ステージ上はセットの入れ替えが行われており、マイルスの登場までもうしばらく時間がかかるであろう。


「ちょっとバス覗いてこようかな、俺」「俺も行くよ」


 難なくロープをくぐり、誰に止められることもなくバスに近づくと、最後にバスに向かい歩いていていたジョーサンプルを目にし、怖いもの知らずの私は、声を掛けていた。


“Hey, Joe nice performance!” “Oh,Thank you!”


 公演のパンフレットとボールペンを差し出すと、「ちょっと待って」の言葉の後に何かを話したのだが、聞き取れず理解が出来なかった。なんとジョーは大切なパンフとどうでもいいペンを持ったままバスに乗り込んでしまい出てこない。


「俺、パンフあげたんじゃないんだけど、サイン頼んだのに~返して~」


 ステージでは歓声と共にマイルスがステージに上がり音を出している。しばらくして、ジョーがバスから降りて渡されたパンフには、メンバー全員のサインが書かれていた。そして何かを訴えているが、残念ながら私には理解する能力がなかった。


「ゆっくりとお願い、、、」


 ジョーは優しく微笑み、“Come on”と一言だけ話、私の腕を掴み歩き出したのだ。私の拙い英語に何度も何度も聞き返し確認を取り、ゆっくりと丁寧にジェスチャーを交え答えてくれている。しばらく歩くと暗闇の中に大木があり人影が確認できた。赤子を抱いた女性とラリーグラハムが親子3人の時間を過ごしている。


 ジョーは、バスに乗り込まず家族でくつろいでいるラリーの元へ、私達を案内してくれたのだ。


 ジョーが私が抱えたパンフを取り、ラリーに渡し、私にペンを出せとジェスチャーをする。ラリーがサインをしながら、「妻と娘だよ」と紹介をしてくれ、なんと奥さんは、抱いていた娘を私に預けたのだ。ベースのスラップ奏法を生み出したとされ神にも似た崇拝を受ける。世界中に多くのファンを持つラリーであろうが、娘を抱っこさせてもらったファンはそれほどいないと思う。私は天にも昇る思いだ。アメリカ人の気さくでフランクな姿を、そして世界的なアーチストだと偉ぶる態度など皆無で同じ目線でファンを大切にする。


 数年が経過した1992年、私は彼女を連れ、再結成したグラハム・セントラル・ステーションの名古屋公演でライブハウスにいた。諸事情で松葉杖をしており、スタンディングの1階ではなく2階席で楽しんでいた。盛り上がりが頂点に達し、一度ステージを降りたメンバーはアンコールで再びステージに立つ。そしてアンコールでの演奏が始まると、ステージ上にはそでから飛び出しダンスを披露する女性と子供の姿があった。私の興奮は最高潮だ。


「あの女の子ラリーの娘さんだよ。まだ赤ちゃんのとき抱っこしたことあるんよ」


「嘘だぁ~、そんなの。あり得ないでしょ!どこで、どうやってよ」


 すべて実話である。マイルスのステージはほとんど見ることが出来なかったが、私に素晴らしい思い出をジョーとラリー一家は作ってくれた。愛と優しさで溢れているのだ。


「ねえ、マスター国民性や個人差もあるんだろうけど、何かツンケンしてるような日本の芸能人とは違いますね」


「まったくだと思いますよ。謙虚さとか人に対する思いやりはないでしょ、日本。芸能の世界だけではなく人を見下すとか多いんじゃないでしょうかね。人との争いを子供のときから強要されますから」

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