紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 元ゲリラ6

「彩香さんの、『人らしく幸せに生きるってなんだろう』って最初の言葉への、彼の答えがここにあるかもしれませんね。消費社会に翻弄し、最も大切な家族との時間も犠牲にして働き、そこから得られる物が何なのか。それが笑顔が見えない日本人の姿であり、使い捨ての消費に明け暮れて環境破壊だけに留まらず、家族、そして自分自身までも壊してしまう。少なくとも彼は、そんな日本人を見て幸せとは感じなかったわけですよね」


「物で溢れただけでは本当の幸せを感じることはできませんもんね」


「私は思うんですよ、人を幸せにしてくれるのはやはり人なんだって。彩香さんが言われる通りに物では本当の幸せを感じることは出来ませんよ」


「物で満足を得ようとすることは、何か心が満たされてないのかもしれませんね」


「そうですね、すべての方に当てはまることではないでしょうけども、より強くストレスを抱える人の多くは、物欲が強い傾向にあると思うんです。でも結局は物では満足できないから次から次へとね」


「幸せであればもっと多くの人に笑顔が見られ、家族、友人はもちろん、他人をも思いやる心が養われてますよね。日本は物も人も使い捨て」


「経済を優先し消費に明け暮れ、使い捨て文化が生まれて環境破壊を招き、環境だけではなく人も壊れていってしまうんです。何より悲しいのは、自ら死を選ぶ方が先進国中で断トツで多いことです。これほど悲しいことってありますか?こんな国にしてしまい、それをそのまま後世に伝え残すことなんて出来ませんよ」


「生物である人間は、自己だけではなく、種を永遠に残すためにも後世のことを考えないとだめですもんね。こんな世の中が続けば、それこそ核で地球が滅びてしまう可能性だってあるわけですから」


「私は以前に登山をしてて、今は自転車なんですけど、必要最低限の物しか持って出られないわけですよ。あれば便利だろうなって程度のものなら持って行かないんですね、身軽であることがより快適に道中楽しめるわけですよ」


「物がなければあるもので工夫することもしますし、それ以上求めないって自制も出来ますもんね。私も自転車やってるんでマスターの言うことよく理解出来ますよ。使いもしないものザックに詰めて走って、これなければもっと軽く走れたのにってありますもんね」


「みんな幸せになりたい、平和な世の中がいいって口を揃えて言いますけど、やってることは全部逆のことやってきたのかもしれないですね。でも日本を変えることなんてできないし、、、」


「おっしゃる通りに日本を変えることは個人の力では無理ですよね、でも、自身の考えを変えることは出来ると思うんです。消費社会に惑わされずに自分で自分をコントロールすることは出来るはずです。個の意識で、結果、日本が変わっていくこともあるわけですよ。日本の愚かな政治家を頼っていては振り回されるだけですし、学校教育にも振り回されないことです」


「人としての幸せって、何となくわかってきたような気がしますね。根本的なことがきちんとあって成り立つことも」


「夫婦がいつまでも仲良く過ごし、その姿を見て子供が育って行き、また自分の子供に伝えて行くんです。共稼ぎしなければならないほど、本来はお金は必要ないんですよね。より贅沢をするために共稼ぎをするのではなく、家をしっかりと守る。料理も出来合いの惣菜、加工品ではなく手作りのものを揃え、それで食べることの大変さ、感謝の気持ちも育まれるわけです。もし女の子なら、家庭の味をしっかりと母親から学んで、それをまた伝えて行く。昔はそれが出来ていたのに、今はその基本となることが崩れてしまってますからね。しっかりと見つめなおさないといけないと思いますよ」

“Soul bar-IORI” 元ゲリラ5

 国は向かうべき方向を指導者が定め、国民を教育していく。国民の姿は日本の指導者達を映し出したもの。自然の摂理から大きく外れ、世の中のバランスを崩すことが日本人はとても好きだ。そうやって日本は伸し上がってきた国でもある。己のことしか考えない日本人が多いのも、これもまた指導者を映し出した姿。


 政治家の報酬は各国により様々な考えもあり、大きく異なる。あまり意味のないことではあるが、日本の首相は月額の基本給は205万円で手当てを含み240万円程が支給され、賞与を併せると年収は5、144万円。ちなみにアメリカ大統領のギャラは、日本円で年間4,900万円ほどらしい。ドイツ2,840万円、イギリス2,600万円、フランス2,400万円。


 ムヒカ氏の大統領時代のギャラは月におよそ100万円。10万円を手元に残し、税制などを把握しておらず曖昧な金額ではあるが、毎月80万円程を寄付してきたのであろう。10万円の金額は国民の平均的な月収より、少し多いらしい。その10万からも残った分は寄付に回したと言う。己の物欲ではなく国民の生活向上をめざし、政治家として得た収入を寄付し、そのお金を元に他からの寄付も併せ農学校などが設立されている。


 物価の違いもあり一概に比較は出来ないが、小池都知事は給与の半減を公約にしその金額を受け取っている。半減された都知事のギャラで年収はおよそ一千万、半減したところで何も困ることはないであろう。カットされた金額は都民の為に使われるのであろうか?


 決められたものを受け取ることに非を感じる必要は何もない。その金額に見合った仕事をすれば良いだけだ。半減で何も困ることはなく、その行為で自らを正義と称える姿があまりにも嘆かわしい。ただの愚か者の見せかけで、政治家としての良心ではなく、選挙に勝つための手法でしかない。明治以降、権力を手にした者達は、自己を優先することを改めることはない。政治家の伝統は固く守られて行く。


「『世界一貧乏な大統領』って呼ばれていた方ですね、確かウルグアイの元大統領」


「そうです、よくご存知で。ただ彼自身は自分を貧しいなんて捉えていませんでしたね。大統領時代も官邸には住むこともせず、国際会議に行くにも専用機などもちろん持たず、チャーターすることもありません。一般の人と同じ飛行機に乗りしかもエコノミー。帰りは隣国の大統領機に便乗させてもらうこともあったそうですよ。友人から譲り受けた古い車に乗り、認知度が上がり億の金で買取を打診されたときには、


『譲ってくれた友人を傷つけることになる』


って手放すことをしなかった方で、こう説いてますね、


『貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ』


そして、私は質素ではあるけれど、貧乏ではないともね。そして指導者のあるべき姿を最も根っこの部分で語った言葉。これは日本の政治家に真剣に考えて欲しいですね」


「どんな発言をされたのですか?」


『私たちは、代表民主制と呼ばれるものを発明しました。これは、多数派の人が決定権を持つ世界だと私たちは言います。ならば、私たち(各国の指導者たち)は、少数派ではなく多数派のような暮らしをすべきだと私には思えるのです』


多くの金を手にし富を得ている者が、多くの国民の気持ちなど理解出来るはずもないですよね。根本解決などあり得えなくて、民間感覚とはかけ離れた公務員の姿も変わることはありませんよ。無駄な金を惜しみなく垂れ流しているのが日本です。そしてさらに、


『お金があまりに好きな人たちには、政治の世界から出て行ってもらう必要があるのです。彼らは政治の世界では危険です。お金が大好きな人は、ビジネスや商売のために身を捧げ、富を増やそうとするものです。しかし政治とは、すべての人の幸福を求める闘いなのです』


日本の政治家達は自己を優先することを惜しみません。己を守り、強きを助け、弱きは葬ることしかできないんですよ。これも明治維新以来ずっと続いてる日本の政策で、何も変わることはありませんよ。金に振り回されてる指導者達ばかりですし、未だに不正で挙げられる政治家がいるなんて完全に発展途上国で、先進国のあるべき姿ではないですよね」


「私腹を肥やす人もいるけど、政治なんてそんなもんかなぁ~って。理想はそうでも、なかなか、、、」


「彼はただの理想家とは違いますよね、大統領として一国を導き、実践してそれを世界に発信した方ですから。彼が2年前に来日したときに、こう言いました。


『日本人は本当に幸せなんですか?』


                                      続く

“Soul bar-IORI” 元ゲリラ4

「根本解決させることが大切なのに、日本の政策って臭いものにはふたをしろ的なところ多いですもんね。一時凌ぎで給付金を出したところで何の解決にもなんないもんな」


「そうですね、根本解決しようと思ったら、政治家の立場が危うくなってしまう人達だらけですよ。一度権力を手にした者達は、見す見す逃すようなことはしませんからね」


「政治もお金儲けですもんね。その年齢に適したことを経験し過ごせば、決め事みたいに適齢期を押し付けられるのではなくて、子孫を残すべき年齢に達したら自然とそうなるかもしれませんよね」


「誰だって幼児期から成長と共に相応しいことをしていける世の中が必要なんじゃないですかね。ときには道を外れることだって仕方ないわけですよ。それをきちんと経験し卒業して社会に出ればいいんです。押さえつけられて、学ばず卒業できてない人が多いから問題も出てきます。凶悪犯罪が後を絶たないのもそんなことが原因のひとつだと思いますね」


「多くのことを学び、卒業して子供を育てる時期を迎える。なるほど」


「でも、結婚して幸せってみんな思ってるのかしら。離婚率も高いし私は結婚が幸せなことだなんてとても思えないな」


「おっしゃる通りですね。人が生物である以上、自然の持つ摂理から大きく外れれば支障を来たすのは当たり前なんですよ。生物として人は群れで行動し、単独では生きていけない生き物です。農耕にしても狩猟にしてもね。問題は、その大切さを養う前に大人にさせられてしまうんです。幼児期にその大切さは十分に学べるはずですけども、多くの人が卒業証書をもらえていないんです。これは日本人がアメリカに憧れ真似をし、個人主義を間違った認識で取り込んでしまったことも原因です。家族と一緒に過ごす時間があまりにも少ない日本の構図にも問題があります」


「日本人の多くが右に習えをしてきて、個の意思が尊重されるのはいいことだとも思いますけど」


「人の意見に流されないで、自己の意思を持ち、それを唱えることはとても大切です。しかし、アメリカの個人主義とは決して放置ではないんです。愛する家族と共に過ごす時間は日本の比ではありませんし、子供がある年齢に達したら個人の部屋を与えますが、それは寝室、寝るだけに存在する部屋です。その時間までは家族で過ごします。日本みたいに何日も家族の顔を見ていないなんてあり得ないことですよ」


「日本は確かに子供が学校から帰って自分の部屋に篭りっぱなしで、何をしてるかわからない、なんて家庭がほとんどですからね」


「そこから、家族の絆、大切さなど育まれるわけがないんです。子供に責任はないですよ、大人が無関心だから無関心な子供が育ってしまうだけです。そべては大人の責任です。アメリカは個人主義って大笑いですよ、これほど個人主義、自己勝手な民族は、世界中探したって日本ぐらいでしょうね」


「確かにアメリカの人って奥さんの出産で仕事を休んだり、家族と一緒にいることを最優先しますね。弱者に対してだけではなく、他の人への配慮もちゃんとしてます。愛に満ち溢れている気がしますね、人にだけではなく、愛国心も」


「アメリカの個人主義と日本の個人主義は根本の部分でまったくの別物です。明日香さんが言われるように、結婚が幸せって思う日本人は少ないかもしれませんね。日本人にとって大切なのは、生物としてもっと自然体でいることなんじゃないかって思うんです。人にとって一番大切なのは家族です。そこから人を愛すること、思いやることを学んで行きます」


「戦後からの復興、より強い経済を目指して多くの犠牲を省みず働いてきたことが、今も引きずってしまってるんですね」


「もう、これ以上の経済発展など人には必要のないものなんです。これ以上の発展を目指せば、そこで得られるものは破壊でしかありませんよ」


                                      続く