「家族」 旅立ち 1
夜明け前の暗がりの駅ホームで、始発電車を待ち、一人の少女がベンチに腰を降ろしている。
中学を卒業した翌日に、使い古したザックを背に家を出た。この時期はまだ冷え込み、手を丸めては息を吹きかけ擦り合わせ、膝を小刻みに動かしている。15年もの間過ごして来たが、生まれ育った土地を離れる寂しさはない。
学校の成績は優秀であり担任は進学を勧めたが、本人は希望せず就職も決めていない。親が進路相談で学校を訪れることもなかった。両親は少女が幼い頃に離婚しており、母の元で生活をしていたが、お互いに興味はないようだ。
少女の関心は、放課後何気なく寄った図書館で見た写真集で、時を忘れいつまでも眺めていた。少女はクラス写真ぐらいしか持つことはないが、必ず自分が写しだされている。美しい風景を切り取った写真にも、あたかも自分がその場に立ち、風景を眺めている姿を思い描き、写真の中へと引き込まれていく。
写真集には一軒の住所が出ていて、ただそこへ行きたい気持ちだ。行けばこの美しい風景に出会えるのかもしれない。
列車の来る方向を眺めては、また視線を落とす。そして空を見上げた瞬間踏切の音が鳴り響いた。遠くから明かりが近づくにつれ、鼓動は速まり踏切の音と重なる。寒さも、ほんの少しの思い出も駅に置き、少女は別世界へと旅立った。
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