紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” 日本酒1

 店では洋酒ばかり扱っているが、「一番好きな酒は?」と問われれば日本酒が真っ先に浮かぶ。石川でも多くの日本酒を楽しんだが、これまた不思議な酒である。


 BGMはブギウギバンド“ZZ TOP”の“Tush”を選んだ。タッシュの意味がわからなくて「イライラ」する、、、<誰か教えて、、、>



Zz top - Tush


 カラン、カランと呼び鈴が鳴り客の来店を知らせると、初めての男性が一人で姿を現した。


「いらっしゃいませ。どうぞお好きなお席に」


 男はなんてことか私の立ち位置の正面に腰を降ろし、ジャックのロックを一杯頼んだ。そして、グラスに注がれた酒を飲みながらこう話した。


「本当は日本酒が好きなんだが、さすがにここには置いてへんわな」


「一杯だけでよろしければ特別にお出し致しますよ」


「ほぉ~どないな酒?」


「石川の酒で天狗舞です。一合、そうですね、1800円頂ければお出しできますが」


「ほぉ~天狗舞ですか。じゃ後で、一杯頂きますわ。でも、このトーストは美味いけど日本酒には合いませんな~。なにか適当に合うものこしらえてもらえますか。しかし、たまたま入ったバーで美味い日本酒にめぐり合えるとは、これまた不思議な縁で」


「たまたま数日前に石川から戻り、酒を一本だけ買ってきましてね」


「なかなか美味い日本酒を飲めることが出来なくてね、どの店行ってもまともな日本酒が置いてなくてイライラしますわ。それなりの店に行けば置いてあるんでしょうけど、なかなか行けないし、もっぱら美味い日本酒は家飲みですな」


 私は男の話を聞きながら、昆布とかつおで取った出汁で梅干を裏ごししたものをのばし梅ダレを作り、大葉を敷いた小鉢に旬を迎えた山芋を短冊にして盛り付け、上から梅ダレをかけあてを一品つくり終えた。後は情況をみながらイカを焼くか、タコを切って出すしか日本酒に合いそうなあてが用意できない。


「そろそろもらおうかな、天狗舞」


「かしこまりました」


 冷蔵庫から鮮やかなピンクを施したラベルが貼られた天狗舞を取り出し、一番小ぶりなグラスに180ccを注いで、作り終えた山芋の短冊と共に提供した。


「ほぉ~、いい香りだ、大吟醸ですな」


「正解です」


 香りだけで大吟醸と判断したこの男はかなり日本酒が好きなようだ。グラスに口を付け一口含み、舌で味わい、そしてごくりと喉を通らせた。


「う~ん、これは美味い酒ですな。軽やかと言うより、こう、きめ細かな感じですな。不純物なしの純米やな」


「お見事」


 山芋を一口食べ、こうも付け加えた。


「う~ん、この梅ダレもええな、余計な味付けをせーへんで、出汁と梅だけ」


「ありがとうございます」


「なんでこう日本は酒も食いもんも混ぜもんばっかやろうな。シンプルなんがいっちょ美味い」


と、男はつぶやいた。 


                                      続く

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