紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

“Soul bar-IORI” ヴォジョレ

 17:00 バーのオープンである。オープン一曲目のBGMは決めていた。理由はただ好きなだけである。“THE CRUSADERS” 1970年代に活躍したアメリカのジャズロックバンドで、都会的に洗練された音ではなく、アメリカ南部の泥臭さを持ち、根っこにはしっかりとブルースを感じる。このバンドは多く取り上げていくであろう。



Sprial - The Crusaders


 店内は、チャームに出すガーリックトーストが焼き上がり、芳ばしい香りが漂っている。バケットを1cm幅で切り、ガーリックをパンに擦りつけバターを塗り、チーズを乗せて焼き上げた。最初のドリンクと同時に一人二枚を提供する。


 18:00頃、ドアに付けられた呼び鈴が鳴り最初の客が訪れた。スーツ姿の40代前半の男と20代半ばの女である。


「いらっしゃいませ、お飲み物はいかがなさいますか?」
  「そうだな、取り敢えずビールを二つ」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」


 ビールを頼む客は、ほぼ取り敢えずを付ける。不思議だ。二杯目から飲み物を換えるならまだしも、取り敢えずと頼み、ビールを飲み続ける人は、、、笑える。


 男はカウンター越しに酒の棚を覗き込み、ラックに寝かせたワインを見つけたようだ。連れの女に確認を取り、


  「ワインもあるんだな、ワインをもらおうか。ボジョレーはあるのか?」
「はい、ボジョレですとムーラン・ナ・ヴァンをご用意致しております」
  「ヌーボーはないのか?」
「申し訳ございません、、、」
   「帰るか」「え?」


 バブル経済真っ只中、ボジョレ・ヌーボーが紹介され一大ブームを巻き起こした。その後、ブームは下火となり沈静したが、ブームの再来を予感させる。今もボジョレ・ヌーボーの生産のうち4分の1程が日本にやってくる。ワイン消費が日本に根付いた証しであろうか?そんな訳はない。ワインを理解しないが故に、買い求め「お祭り」を楽しむのが日本人であろう。


 ボジョレ・ヌーボーとは、ボジョレ地区でその年に収穫された「ブドウの出来具合」を確認するために仕込まれる試飲用の酒で、ワインの製法とも異なっている。主にワインの買い付け業者向けに製造される酒で、ブドウを収穫し、仕込が済んだ際のお祭りにも飲まれる酒だ。ワインの製法と異なり、経年熟成もしない。ワインとして楽しむらな、決して美味しい酒ではないであろう。試飲用の酒を飲んで美味しくないと感じ、ワインの価値を下げてしまうのではないだろうか。


 ワインの仕込みを終えたお祭りに、地球の裏側から参加する意味がどこにあるのか、私にはわからない。ブドウの良し悪しを見極め、いずれ出荷されるであろうボジョレ・ワインを選ぶ際の指針にするのであろうか?おめでたいことだ。


 酒もあくまで趣向品であり、好きに楽しむのも自由であるが、金に任せて買い付けをし、他国の大切な文化に、土足で踏み込む様な真似だけは慎むべきであろう。ボジョレ・ヌーボーの解禁日が、店のオープンとほぼ重なり、求める客も想定したが、決して用意するつもりはない。


 ボジョレの中で、特に素晴らしいワインと思い仕入れたムーラン・ナ・ヴァンを売り損なった。今日の売り上げ、チャージ500円、ビール700円×2=2400円、、、ショボン

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